小池知事に翻弄され続けた市場の人々、悲鳴ルポ 「どこが都民ファーストなのか」
小池百合子知事
今月17日、小池百合子知事は、豊洲市場の「無害化」が達成できていないことについて市場業者に陳謝。週内にも「豊洲移転」を表明すると報じられている。だが、小池知事の耳に、度重なる方針転換に翻弄され続けた、市場に生きる人々の悲鳴は届いているのか。ノンフィクションライター・上條昌史氏が「市場の声」を徹底取材した。(以下、「新潮45」7月号掲載「ルポ『豊洲移転』延期」より抜粋)
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「業務用の冷蔵庫は簡単に冷えないものなんです。マイナス60℃の超低温に保つため、建物全体に配管を巡らせてコンプレッサーで冷たい空気を送り込む。豊洲に整備した2つの巨大な冷蔵庫は、昨年11月7日の開場に合わせて何カ月も前から“冷やし込み”を始め、東京都がOKすれば、事前に品物を運び込める段階まで来ていました。
そのタイミングで移転延期という小池知事の判断が出て、現場の作業にもストップがかかったんです。でも、いったん電源を入れて冷やした冷蔵庫は建物の構造上止めることができない。なので、現在も冷蔵庫は電源が入ったまま、マイナス60℃でガンガンに冷やし続けている。もちろん、中身は空っぽのままです」
そう語るのは、東京都水産物卸売業者協会会長の伊藤裕康氏だ。
豊洲市場建設のために東京都は約5880億円を投じた。そのことはメディアに散々取り上げられてきたが、一方、民間支出が300億円に上ることは知られていない。
前出の冷蔵庫に70億円、無線LANの設備に30億円、ゴミ処理の設備が5億円――。活きた魚の競りを行なうための「濾過海水」の設備を22億円かけて作ったが、これも冷蔵庫同様、稼働を始めると止めることができず、現在も1日に100トンの水を回しているという。
「こうした費用は全て民間でお金を借りて、約18年かけて返済していくことになっています。当然、我々に大きな負担としてのし掛かってくる。“今回の移転は間違いない”と思ったからこそ、多額の借金をして整備をしたんですが……」
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■「築地ブランド」
小池知事をはじめ、移転反対派は「築地ブランド」という言葉をよく口にする。豊洲に市場が移転すると、それが失われてしまうというのだ。だが、伊藤氏は築地ブランドをこう定義する。
「築地ブランドというのは、目に見えるものではなく、“築地に行けば安心だ、築地に行けばなんでも揃う、築地の魚は間違いがない”という『信頼』に他なりません。それは卸や仲卸の業者が、悪いものを弾き、良いものだけを取り揃えてきたからこそ。
つまり、私たちが長年に亘って、日々の努力で築き上げてきたものです。ブランドとは形ではなく中身。だから、築地ブランドは豊洲移転で損なわれるようなものではありません」
■“受けて立ちます”
一方、小池知事の延期宣言が許せず、住民監査請求(棄却後、住民訴訟を提起)を起こしたのは、築地市場の仲卸業者「鈴与」の3代目、生田與克氏だ。
具体的には、小池知事や都の中央卸売市場長ら担当者に計約3億6000万円の支払いと、速やかな豊洲市場への移転実行を求めた。現在、豊洲市場の維持・管理費だけで1日当たり約500万円かかっており、生田氏らが起こした請求は今年1~2月に生じた分を対象としている。こうした費用は予定通り豊洲に移転していれば生じない支出なので、東京都が被った損害への賠償を求める、というものだ。
「小池都知事は、住民監査請求を出すといったら“受けて立ちます”と言った。おかしくないですか? 都民からの訴えがあり、都民ファーストを標榜するのなら、その訴えを“精査して謙虚に受け止めます”と言うべきでしょう。一体どこが都民ファーストなのか」
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豊洲移転のウラで翻弄され続けた人々――「新潮45」7月号では、彼らの“悲鳴”をさらに詳しく報じている。