男好みのアクションは目立つがそこそこ良作公安ドラマ(TVふうーん録)
先日、自衛隊関係の男性がいるお店で飲んだときのこと。使う銃の弾丸は案外小さくて細いという。一撃で殺すのではなく、負傷させて救護させることで最前線の人員を減らすんだって。飲み屋でこんなキナくさい話をすること自体が恐ろしい。「既に自衛隊は臨戦態勢に入ってるんでしょ?」と聞くと「そんなことはない」と言っていたが。不穏。
ドラマや映画ではいとも簡単に一撃必殺のアクションシーンが多いが、実際には一撃必殺は難しくて、数撃は必要だろうと思っている。敵とそこそこやりあうほうが現実的な気がする。
その、そこそこやりあう感が強くて、現実味があるのが「CRISIS」だ。新幹線の中で、ホームセンターの中で、肘から下の可動域をフル活用したアクションは、国土の狭い日本に最適。ビシッ、バシッと衣擦れの音も、特殊警棒が伸びる音も程よくリズミカル。
主演・小栗旬のアクションも小気味よい。やたらと2階や3階から飛び降りる。夏目漱石「坊っちゃん」か。本当はアクションが向いていないが、今は公安クライム路線が売りなので仕方なく演じる西島秀俊も、疲労困憊しながら頑張っている。
初めはこの「どや感アクション」が鼻について入り込めなかった。さらには、警察庁の長塚京三が個人的に集めた公安特捜班という点で、既視感ある設定が邪魔をした。公安&潜入捜査と言えば「MOZU」と「ダブルフェイス」。TBSとWOWOWの呪いが未だにかかっているのだ。私に。
(C)吉田潮
しかしだな、正義の在り方に必ずと言っていいほど疑問を持たせる、胸糞悪い結末がいい。みんな大好き、勧善懲悪&大団円で終わる警察モノとは真逆だ。
児童買春で少女の命を奪いかけた政府要人、公安とテロリスト集団を天秤にかけて情報漏洩していた学者、青臭い正義感に感化され、大臣暗殺を企てた若者の自殺、政府に利用されて殺されたヤクザ……どんなに特捜班が暗躍しようとも、救いのない結末。毎回、口の中が苦いまま終わるというのは希少である。最近は口当たりのまろやかなドラマが多くて、味覚がおかしくなっている。この手の「倫理観も法律も通用しない悪が蔓延(はびこ)りっぱなし」も時に必要。事実、政治家の提灯持ち男が女性をレイプしても捕まらない国だもの。
特捜班には爆弾探知犬レベルの嗅覚をもつ野間口徹、元ハッカーの新木優子、元捜査一課の田中哲司。優秀な面々だが、警視庁の公安総務課長(飯田基祐)の一声ですべてが決定。上意下達に抗(あらが)えず。駒のごとく使われ、公務員の危険手当は雀の涙。彼らにカタルシスはなく、あるのはクライシスだけ。心病んじゃうよね。
8話までくると、特捜班も黙っちゃいないってことで、テロリスト宗教団体に捕まった公安協力者を救出すべく超長回しワンカットで、どや感アクション再び。見事。見事だが、映画「ラ・ラ・ランド」の冒頭にもさほど感動しなかった私は「別に」。それよりも不穏な時代の不埒(ふらち)な権力、歪んだ思想の若者たちをどう始末するか、が気になる。