“喉仏スクワット”で予防! 誤嚥性肺炎で死なないための「10カ条」
■人は喉から衰える!? 「誤嚥性肺炎」で死なないための「10カ条」(下)
人は喉から衰える!?
いちど罹れば「死」に直結する、「誤嚥性肺炎」という恐怖の病。肺に入り込んだ細菌や胃液が引き起こす肺炎だが、予防法はあるのだろうか。これまで1万人以上の嚥下障害患者を診てきた西山耕一郎医師(西山耳鼻咽喉科医院理事長)によると、鍵は「喉仏」にある。
「人は喉から衰えるというのが私の考えです。触ってみると分かりますが、ごっくんと唾を飲みこむと喉仏が上下しますよね。それは『喉頭挙上筋群』と呼ばれる筋肉が喉仏を引っ張り上げたり下げたりしているから。お年寄りの中には、筋肉が弛み喉仏が下がっている人を見かけますが、こうなると、顕著に嚥下障害が起きやすくなる。自分は若いから大丈夫と思っている人もいるでしょう。でも、喉仏の筋肉は40代から衰え始めているのです」
一般に、喉の機能は女性より男性のほうが衰えやすいと言われている。理由ははっきりしないが、女性におしゃべりなタイプが多く、男性に寡黙な人が多いことが、喉の機能に現れるとも言われている。
ある日、鏡で喉仏が下がっているのを発見し愕然となったとしよう。だが、それでも、「飲みこむ力」は維持できると西山氏は言う。実際、嚥下のできない患者に実践してもらい、回復を遂げた方法を挙げてくれた。
西山氏によると、トレーニングは3つのグループからなっている。まずは「喉の筋トレ」。喉頭挙上筋群を直接鍛える方法だ。
■嚥下おでこ体操、あご持ち上げ体操
「おでこに手根部(掌の下部)をあてて、おでこと手で押し合いをするのです。この状態を5秒間キープして、5〜10回繰り返す。またあご下に両手の親指をあてて、これも同じ回数押し合いをするのです」(西山氏)
■シャキア・トレーニング
「アメリカのシャキア医師が考え出し、国際的にも認められたものです。マットなどに枕なしで仰向けになり、頭だけをゆっくり持ち上げて自分のつま先を見る。ここで30秒〜1分間停止し、5回から10回繰り返すのです」(同)
■喉E体操
「歯を食いしばり、『E』と言う時の形を作る。そして“イィ〜”と発声します。喉仏を意識しながら5〜10回行います」(同)
次に「呼吸トレーニング」。その名の通り呼吸機能を鍛えるものだ。
■ペットボトル体操
「高齢の方は500ミリリットルの軟らかいペットボトルを、思いっきり吸ってペシャンコにする。その後、息を吐いてまた膨らませる。これを1日5回ほど繰り返します。慣れてきたら徐々に硬いペットボトルにしてゆきます」(同)
また、オモチャの吹き戻しを膨らませるトレーニングもある。
■スポーツ吹き矢
「5〜10メートル離れたところから的を狙う『スポーツ吹き矢』が、最近はやっていますが、これも呼吸機能を鍛え、嚥下機能の維持にもつながります。高齢者でも気軽にできるし、お年寄りの仲間同士でも楽しめます」(同)
そして3グループ目は「発声トレーニング」。嚥下と発声は、ほぼ同じ臓器を使うためである。
■ハイトーンボイス・カラオケ
「カラオケは楽しみながら飲みこむ力をキープする有効な手段です。コツは高い声で歌うこと。初心者向きは石川さゆりの『津軽海峡冬景色』や井上陽水の『少年時代』。慣れてきたら上級者向きの『さくら』(森山直太朗)などがトレーニングに向いています」(同)
■喉仏スクワット
「喉仏は高い声を出せば上がり、低い声では下がる。これを繰り返すことで筋肉を鍛えるのです。学校の演劇部では“アエイウエオアオ”と発声練習しますが、アイエを高く、ウオを低く発音するのです」(同)
9つのトレーニングを挙げたが、すべて実践することはない。「喉の筋トレ」、「呼吸トレーニング」、「発声トレーニング」の中からそれぞれ1つ選んで合計3種類を、できれば毎日3回以上行ってほしいと西山氏は言う。
また、口腔医学に詳しい歯科医師の米山武義氏(米山歯科クリニック院長)によると、発声トレーニングの1つに「パタカラ体操」という方法もある。
「1文字ずつ発音するのですが、できるだけ大きな声で“パパパ”、そして“タタタ”とそれぞれ複数回言ってください。大事なことは唇をしっかりと閉じた状態から発声し、頬と舌を意識的に動かすこと。そして分泌された唾液を“ゴックン”と飲みこんでください。“空嚥下”といって、喉を鍛える訓練になります」
年とともに衰える反射神経を回復させるのは難しい。だが、たとえ60代からでも「飲みこむ力」を鍛え直せば、10年は寿命を延ばせる。
長年、「喉」を研究してきた西山氏は、そう話すのである。
特集「人は喉から衰える!?『勘三郎』『山城新伍』『豊田泰光』共通の死因 『誤嚥性肺炎』で死なないための
『10カ条』」より