84万部突破「うんこ漢字ドリル」の社会的考現学 なぜ子どもは魅かれる?

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■古事記からフロイトまで

 先の尾木氏に付言すれば、バラエティ番組などで「うんこ」が飛び出すたび、子どもが歓喜するのは昔も今も変わらない。

「自分の体から異物が出てくることの意外性に、子どもは反応するわけです」

 評論家の呉智英氏は、そう前置きしながら、

「ウンチであれ鼻水であれ吐瀉物であれ、出した後にはスッキリする。体に潜んでいた物が外に出ると解放感を覚えるので、子どもは関心を抱くのです。中でも、嘔吐は年にせいぜい3回ほどしかなく、おしっこは単なる液体。グロテスクさを感じる異物感はウンチが一番強いのです」

 続けて、こう論じるのだ。

「子どもに限らず、人類は何千年も前からウンチを語ってきました。古事記にも記されている『オオゲツヒメ伝説』とは、死と再生の神話と同じく、汚いウンチから新たな穀物が生まれるというもの。人類学でも登場するテーマで、多くの民族に共通しています。古代人もまた現代日本の幼児と同じメンタリティーを持っており、排泄物から次のエネルギーが出てくるという考え方は、当時からあります」

 成長に伴って社会性を身につけ、公共の場で排泄物の話はタブーとなるのだが、子どもは未熟ゆえ反応が直接的だというわけだ。

 評論家の唐沢俊一氏も、

「人類と排泄物に関して理論化したのはフロイトです。『人間のすべての行動がセックスに関係している』とし、高い煙突や尖った槍の夢は男性器の象徴だと言いました。彼は性的感覚が目覚める2〜4歳くらいの幼児期を『肛門期』と名付け、排泄時に味わう快感は大人になって味わうセックスの前兆であると捉えた。子どもがトイレやウンチの話が好きなのは、大人がセックスの話を好むのと類似しているとも述べています」

 わが国も御多分に洩れず、

「『東海道中膝栗毛』の原典を読むと、セックスやスカトロの話がたくさん出てきます。それは、排泄物のことなど口にするのも憚られるほど堅苦しい武家社会に対する庶民の反骨心の表れで、今の子たちが『うんこ』と口に出すのに通じている。普段は真面目くさった大人たちが、うんこと言われて怒る。それが面白くてわざと言ったりして、大人社会に一矢報いているわけです。今回は、その“発散材料”を出版社に利用されてしまった感があります」

特集「84万部突破! 子供も大人も魅入られた『うんこ漢字ドリル』の社会的考現学」より

週刊新潮 2017年5月18日菖蒲月増大号掲載

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