84万部突破「うんこ漢字ドリル」の社会的考現学 なぜ子どもは魅かれる?
「うんこ漢字ドリル」
いささか尾籠ながら、かつて我々の糞は農作物の肥料として重用されていた。それが現代の巷で、学習の肥やしになろうとは誰が想像し得たか。その名も『うんこ漢字ドリル』(文響社)なる小学生向けの教材が絶大な人気を博している。一体、何が起きているのか。
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人を食ったようなタイトルの教材が書店に並び始めたのは、3月下旬のことだった。学年ごとに作られたドリルは、あわせて初版3万6000部。これが瞬く間に話題となり、現在は5刷84万部に達したという。街の書店では、人糞をかたどったポップが躍り、擬人化されたキャラクターまで出現。ひたすら購買を煽っている。
小学校6年間で習う漢字は合計1006字。このドリルは、一つ一つに書き順などの解説を加え、例文を3つずつ添えて読み書きを学べる仕様となっているのだが、特筆すべきは全ての例文に「うんこ」の3文字が入っている点。随所に見られるイラストも例文の内容を“反映”しており、ドリルの表紙は、書店でも目につく黄色いキャラクター「うんこ先生」と、ともかく徹底しているのだ。
試しに1年生用のドリルをめくると、こんな例文が目に入ってくる。
〈ぼくは、六月(がつ)になるまでうんこをしないぞ〉
〈田んぼのどまん中(なか)でうんこをひろった〉
いずれも「六」「田」の字の読みを問うもので、書き取りについてもまた然り。例えば6年生用では、
〈大学生が、うんこを□小(しゅくしょう)コピーしている〉
〈うんこで前が見えないので、一度車から□(お)りる〉
といった具合。およそ日常で起こり得ないシチュエーションではあるものの、こんな調子で全漢字の読み書きを網羅しているのだ。
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