マツケンで案外マジメに家族の多様性を描くNHKドラマ「PTAグランパ!」(TVふうーん録)

  • ブックマーク

 松平健がPTAと聞いて嫌な予感しかしなかったのが、NHKBSのドラマ「PTAグランパ!」である。勧善懲悪でバッサバサ斬り倒すイメージしかできなかった。夜回りで活躍する北大路欣也に対抗するのかなと思っていた。ところが、開けてみると実に奥深い。親という生き物の多様性を描く良作であることが判明。

 定年退職して、何もすることがない松平健。家事を手伝おうとするも、余計なことばかりしでかして、妻の浅田美代子からは文句を言われる。離婚して実家に戻ってきた娘(ロング缶の発泡酒が似合う真飛(まとぶ)聖)は、一流企業で働くシングルマザー。忙しい真飛に代わって、PTA副会長を引き受けることになった松平。つい企業戦士の理論を振りかざし、PTAでは老害扱い。総スカンを食らうも、閉鎖的なPTAに波紋を呼ぶ。

 自分が正義と信じて疑わない松平は合理的な意見も言うが、無神経な発言も多い。女親に対する偏見と育児の押し付けが強く、居酒屋に子連れで来たら面罵したり、事情があって一人っ子の親に二人めを促したり。この感覚は完全なる老害なのだが、それをちゃんと反省させる運びなのだ。

 迫力のある顔と声で叱責するも、悪いと思ったらすぐに謝り、訂正する松平。長々と小言を垂れようものなら、周囲の人がしれっと躱(かわ)す。つまり、松平は「厄介だけど憎めない」主役として、見事に降臨している。

(C)吉田潮

 松平だけでなく、他の登場人物も、それぞれの立場と価値観が細やかに描かれている。妻の浅田は、第二の人生を謳歌しようと思っていた矢先に、定年退職した夫が家にいる邪魔臭さ、出戻りの娘が家事全般を頼んでくる図々しさに、ほんの少しイラッとしている。

 娘の真飛はシングルマザーが受ける偏見、仕事と育児の両立の厳しさ、実親に甘えるしかない現状を体現。

 また、PTAの面々にもそれぞれの思いと事情がある。パート主婦で三人の男児をもつ安達祐実は、基本的にお人好し。NOと言えずに安請け合い。そんな自分が嫌で、歯に衣着せぬ松平に少しだけ共感を覚える。

 閉鎖的なPTAを牛耳るお局(つぼね)・村岡希美は意地悪だが、きちんとPTAを運営してきた功労者である。頼りになる人だし、こういう人を悪者にしてはいけない。

 一方、PTA会長はチャラい言動の戸塚純貴。年上の養護教員と高校生でデキ婚し、今は看護師として働く妻を支えて、専業主夫をこなす24歳。彼の存在もまた大きい。父権主義を振りかざす松平と真逆だが、彼もまた善良なる父親である。

 さまざまな親がいて、それぞれの事情がある。昨今、その意義と問題点が問われているPTAだが、この作品は一石を投じるかもしれない。私は親ではないので、あくまで外様なのだけれど。

 劇中の誰に思いを寄せるかと言えば、松平の同期で、スーパーで働く中原丈雄である。妻と二人暮らしだが、どうやら介護をしている模様。身の上はまだ不明だが、子孫がいない人もいるという配慮か。ともあれ、多様な立ち位置の人間模様をエア体験できる秀作だと思う。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年5月4・11日ゴールデンウイーク特大号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。