米軍が北朝鮮を先制攻撃する「Xデー」 そのとき日本が迫られる「難民」「支援」問題
原子力空母「カール・ビンソン」が朝鮮半島に接近、原子力潜水艦「ミシガン」も韓国・釜山に寄港するなど、米国は北朝鮮に対する圧力を強めている。米軍が北朝鮮を先制攻撃するその時は近い――。拓殖大学海外事情研究所所長の川上高司氏が「新潮45」5月号に「米軍が北朝鮮を『先制攻撃』するXデー」を寄稿した。
***
核開発を進め、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮だが、先制攻撃を行う基準となる米国のレッドライン(越えてはならない一線)はどこにあるのか。ホワイトハウスのスパイサー報道官は明言を避けるが、川上氏は〈先制攻撃を行う要件は整った〉と見ている。※〈〉は本文より引用、以下同
その根拠を川上氏は複数挙げるが、今年2月の金正男暗殺に使われた「VXガス」の存在が理由になるというのは興味深い。
〈VXガスは米国がサダム・フセインのイラクに対する軍事作戦の根拠となった。2003年1月の一般教書演説で、ブッシュは、CIAとFBI報告でサダム・フセインは「500トンのサリンとマスタード・ガス、VXガスを製造するための物資を有している」とし、「将来米国が攻撃される差し迫った危機に置かれている」と述べた。そして、その2カ月後、ブッシュ政権はイラクへの武力行使を承認した。したがって、今回も北朝鮮のVXガス使用が米国の北朝鮮への軍事力行使の理由となる可能性がある〉
■押し寄せる難民、崩壊後の支援
金正恩
また、金正恩が「ICBMの発射実験の最終準備に入った」と宣言し、米国本土への核攻撃の可能性を匂わせた点も“レッドライン越え”の理由となる。
〈米国の専門家の分析には、北朝鮮がすでにミサイルに搭載可能な1トン程度までに核弾頭の小型化に成功したとみているものもある。いずれにせよ、北朝鮮が米本土に到達可能な飛距離を持つミサイルを開発するのは時間の問題とみられる〉
そんな北朝鮮に対抗するための、日本の核武装の是非についても川上氏は言及。この点については「新潮45」本誌を参照されたいが、いざ“Xデー”が来たとき、日本政府はどのような対応を迫られるのか。巷間言われるミサイル防衛の不備と共に、川上氏は「難民」についての問題も指摘する。
〈北朝鮮や韓国が動乱状態に入れば、地中海のシリア難民がヨーロッパに押し寄せたように、日本海を渡り大量の難民が漂着する可能性がある。(中略)事態の展開にもよるが、難民の規模は数千人から数万人に及ぶ可能性もあるとみられている。それをどう日本は扱うのか。また、その難民・避難民の中にまぎれて武装した偽装難民が大挙して来襲した場合の対処もどうするのかが問われる〉
北朝鮮崩壊後の支援にも課題がある。
〈北朝鮮のみでなく韓国の経済や政治体制も相当ダメージを受けているだろう。日本からは朝鮮半島への経済的支援が求められよう。この場合もいろいろなケースが想定される。韓国への支援だけですむのか、あるいはその後、朝鮮半島が統一された場合は、そこへの支援も必要となろう。
韓国への支援だけを考えてみても、北朝鮮の動乱を経た韓国経済は最悪の事態に陥る可能性が高い。その場合の日本経済への影響もかなり大きい。1997年のIMF(国際通貨基金)救済や、2008年の通貨危機が思い浮かぶが、それを上回るダメージを受けるかもしれない〉
米国と北朝鮮の衝突が、日本にとって対岸の火事で済まないことは言うまでもない。