「B級グルメ」「ゆるキャラ」ばかりが「町おこし」ではない 石破茂初代地方創生担当大臣が感心した「A級グルメ」

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■誰もが「B級グルメ」を目指すべきか

 地方創生→町おこし→B級グルメ→ゆるキャラ……「連想ゲーム」ならばこんな展開になるだろうか。メディアが好んで取り上げるのが「B級グルメ」や「ゆるキャラ」なので、地方創生というと、すぐに「B級グルメ」や「ゆるキャラ」のようなものを、わが町でもやるべし、といったアイデアが生まれがちだ。

 全国ニュースで取り上げられるようなグルメやキャラがあれば、町に人が来てくれるはず――そう考えたくなる気持ちはわかるが、安易にそういうアプローチをする必要は無い、と指摘するのは、石破茂氏。他ならぬ初代「地方創生」担当大臣である。

「観光はA級を目指すべし」と提唱する石破氏

 石破氏は、地方創生相としての知見をもとにまとめた新著『日本列島創生論』の中で「観光はA級を目指すべし」と提唱している。以下、その持論を本書をもとにご紹介してみよう(「 」内は引用)

「注意しておきたいのは、『町おこし』という時にセットのように語られる『ゆるキャラ』『B級グルメ』のことです。たしかに『くまモン』や『ふなっしー』、あるいは『富士宮やきそば』のような成功例に見られる通り、そうしたアプローチも時に有効でしょう。しかし、どこもかしこもがそういうやり方をする必要はないように思います」

■A級グルメ宣言の町

 そう考える石破氏が感心したのが、島根県邑南町(おおなんちょう)の取り組みだ。広島県との県境にある人口1万人ほどのこの町では、「ウチはA級グルメしかやりません」と宣言している。町長の考え方は「B級グルメをやっても地方同士の潰しあいになるだけだ。B級グルメはどこででも作れるものだ」というもの。

「そもそもヨーロッパを見てみれば、一番いいレストランがパリにあるとは限らない。産地に近い地方に名店が多くあります。

 『少々高い金を払ってでも行って食べたい』

 そう思わせるものを邑南町で提供したい、というのが町長の考えです。(略)

 山形でやはり素材を活かした料理で高い評価を得ている『アル・ケッチァーノ』のシェフである奥田政行さんに協力を仰いで、『里山レストラン AJIKURA』という店を開きました。私も現地まで出向きましたが、実に美味しい料理が堪能できました。

 メリットは産地に近いことだけではなく、土地代が格安だということです。東京なら2万円は必要な料理が、ここならば1万円くらいで食べられる。ディナーで一番安いコースは、何と2人で6000円です。これなら飛行機の『早期予約割引』のようなサービスを使えば、そう大差ない出費で美味しいものが味わえるというわけです。

 実際には、さすがに東京から飛行機で来るお客さんは多くないようですが、高速道路を使って、広島など周辺の都市から多くのお客さんが来ているそうです」

■今だけ、ここだけ、あなただけ

 石破氏は、「ゆるキャラ」「B級グルメ」の意義は否定はしない、としながらも、こう述べている。

「それらの中での『勝ち組』はごくごく限られているように感じます。計算し尽くして作っても、ヒットするのはほんの一部ですし、そのグッズが売れたからといって、それだけで町に人が来るわけではありません。

 そうしたやり方とは別のアプローチをして成功している地域はいくつもあります。その共通点は、『ここにしかない』『ここでしか経験できない』『今しかない』ものは何かといったことをつきつめて考えているということはないでしょうか。これを『今だけ、ここだけ、あなただけ』と言っていますが、観光産業の一つのキーワードだと思います」

 もちろん、集客などとは関係なく地元に愛されているゆるキャラもいる。それはそれで結構なのだが、少なくともゆるキャラ目当てで人が押し寄せるなどといった甘い考えは持たないほうが賢明ということだろう。

デイリー新潮編集部

2017年4月27日掲載

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