カッターナイフを父の病室に… 荻野アンナが語る「介護」の実体験
■他人事ではなかった「介護殺人」の恐怖(3)
介護をする肉親は、「全て自分で自己完結させなければならない」と思い込んでしまう
作家で慶応大学文学部教授の荻野アンナ(60)は、介護するなかで、自分でも訳も分からず「凶器」を準備したことがあった。
「私は事実婚のパートナー、父、母と、3人を介護してきました」
と、荻野本人が回顧する。母親が鬼籍に入ったのは一昨年で、計20年に及んだ介護生活。なかでも悪性リンパ腫や腸閉塞を患い、10年に亡くなるまで15年間続いた父親の介護では、彼女はあと一歩で惨事になりかねない「狂気」に走っていた。
「ある病院から次のリハビリ病院に移ると、父は『なぜ私をこんなところに閉じ込めるんだ』と騒ぎを起こし、担当の医師から『もう、うちから出て行ってください』と連絡が来たんです。やっと見つけた病院だったこともあり、連絡を受けた私は目の前が真っ暗になってしまって。病院に行く途中、最寄りの駅のコンビニでカッターナイフと缶チューハイを買っていました。どうして買ったのかは、自分でもよく分かりません。とにかく無我夢中でした」
缶チューハイを飲みながら、カッターナイフとともに病院に向かった彼女は、
「まず父に、『騒いではいけない』と優しく諭(さと)してみたんですが、話を聞こうとしてくれなかった。すると、それまで私の中でなんとか保っていた『何か』がガラガラと音を立てて崩れ、『もういや、こんな生活!』『お父さんを殺して私も死ぬ!』と叫びながら、床を転がっていました」
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