安藤和津、「介護自殺」を身近に感じた20年間の介護生活を明かす
他人事ではなかった「介護殺人」の恐怖
超高齢社会の日本で相次ぐ、介護殺人事件。小社刊『介護殺人─追いつめられた家族の告白』(毎日新聞大阪社会部取材班著)にまとめられているのは、おぞましくも哀しい手段に手を染めざるを得なかった関係者たちの声である。
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俳優の奥田瑛二の妻であるエッセイストの安藤和津(69)は、介護していた実母の死を夢に見たことがあったと振り返る。彼女は、脳腫瘍を患い認知症に至って亡くなった母親の介護に20年間奔走した。
「母を介護している際、一度こんな夢を見たんです。私が母の首を絞めて殺そうとしている――。まさに『介護殺人』の中の女性そのものです。『やってしまった!』と愕然として、ハッと目覚めました。現実には殺すなどと思ってもいなかったのに、夢では殺人をイメージしてしまっていた。とてもショックで、自分が怖くなりました」
同時に彼女は、「介護自殺」も身近に感じていた。
「06年に母が亡くなる直前のことです。夜にふと窓の外を見ると庭の大きな木が目に飛び込んできた。それを見ていたら、『この木に紐をぶら下げて首をくくったら楽になる』と思ってしまったんです。宵闇に浮かぶ木に、自分が吸い込まれていくような感覚とでも言えばいいでしょうか」
母の晩年、私は毎日1、2時間の仮眠程度…
そこまで追い詰められた安藤の体験とは、
「『介護殺人』の人たちもそうでしたが、私も母の介護に追われて慢性的な睡眠不足に陥っていました。人間は眠らなければ体力も気力もなくなり、思考回路もおかしくなってしまう。母の晩年、私は毎日1、2時間の仮眠程度だったんです」
その日常とは、まず、同じマンションの別の部屋に住んでいた母親が、
「朝の3時、4時に『ご飯まだ?』と言ってくる。トイレに行く際の介助では、一度便座に座ると立ち上がれないので、私の腕に掴まるのですが、何しろ体重は74キロ、その際の加重で何度も肩を脱臼しました。今でも肩の骨が変形しています。夜中は用もないのに15分おきに名前を呼ばれ、オムツも2時間に1回は交換しないといけない。仕事、家事、子育てと介護で、熟睡できることは全くありませんでした」
したがって、
「本に出てくる介護殺人に手を染めた人の気持ちが痛いほど分かります。『手にかけてしまう』のって、コップに水が溜まっていって、表面張力が限界に来て、水が一滴こぼれ落ちるみたいなものだと思うんです。しかも愛情があればあるほど、相手を思いやればやるほど、必死に介護しますから、水はたくさん溜まるんです」(文中敬称略)
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