他人事ではなかった介護殺人の恐怖 「橋幸夫」認知症の母との6年間

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■他人事ではなかった「介護殺人」の恐怖(1)

介護殺人という平成日本の現実(写真はイメージ)

 愛している、だからこそ殺す――。超高齢社会の日本では今、こうしたおぞましくも哀しい事件が相次いでいる。介護殺人。家族の面倒を見るのに疲れ果て、あるいは将来を悲観して殺(あや)める。「他人事(ひとごと)」にも思えるが、介護体験を持つ著名人は「身近」に感じているのだった。

 ***

 新大阪駅から車で約30分、国道を折れて150メートルほど進むと、突如「昭和」が現れる。もたれ合うように軒を連ねる、今にも朽ち果てそうな木造2階建ての長屋。路地に並ぶ錆(さ)びついた自転車や枯れきったプランターの植物が、ここに暮らす人々の生活が楽なものではないことを物語る。「平成」に置いてきぼりを食らったかのようなこの小さな町の片隅に、その「遺族」の女性(71)はいた。

「とりあえず中に入って」

 近所の目を気にしている様子の彼女は、間口が2メートルしかない長屋の中へと記者を引き入れる。塗装業を営んでいた夫がかつて商売道具として使っていたペンキの「残り香」が、家中に染みついている。

「介護なあ……」

 土間で言葉を絞り出す彼女と玄関の扉を隔てた路地では、野良猫が数匹、無邪気に眠っている。

「もう辛(つら)くて、辛くて。私かて『アレ』するつもりなかったんやけど」

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