吉野家、奨学金制度を開始 大学生“先物買い”の狙い

ビジネス 企業・業界

  • ブックマーク

■離職率50・5%

 さすが、庶民の味方だと拍手を送りたくなる。しかし、“叩き上げ”から名を遂げた2人ゆえ単なる慈善事業であるわけがない。

「人材確保とイメージアップが狙いだと思います」

 こう分析するのは、外食産業に詳しいジャーナリストの福田健氏だ。

「外食産業が直面する課題は、一にも二にも人材確保。現場でアルバイトを指導する大卒社員の数が絶対的に足りず、入社してもすぐに辞めてしまう。4年間、週3時間以上働いた奨学生の何人かが入社すれば、“即戦力”になることは間違いありません。この制度は、大卒社員の“先物買い”という思惑が働いているのだと思います」

 だが、居酒屋チェーン「ワタミ」の過労“自殺”事件や、深夜の営業を1人に任せていた「すき家」の“ワンオペ”問題に代表されるように、外食産業のイメージは決してよくない。事実、マイナビが実施した大学4年生対象の就職人気ランキングでは、トップ100に外食産業の名は1社も見当たらないのだ。

「外食産業でもう1つの問題が離職率の高さ。昨年実施した厚生労働省の調査によれば、入社3年後の離職率は全業種で31・9%なのに対して、宿泊業を含めた外食産業のそれは50・5%のワースト1。新入社員の2人に1人が、3年以内で会社を去る異常事態が続いている。奨学金の返済免除の条件を“4年間勤務”にした理由は離職率を改善し、イメージアップに繋がればと考えているのでしょうか」(福田氏)

 外食産業担当アナリストのこんな分析もある。

「吉野家の試みは非常に評価できますが、思うような効果が得られるかは疑問です。外食産業は“キツイ”、“給与が低い”、“帰れない”の新3K職場と呼ばれている。こうした環境を抜本的に解決しなければ、離職率の改善は期待できません」

 奨学金の対象者は、上限10人。まずは、どのくらいの倍率になるのか見ものである。

週刊新潮 2017年4月13日号掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。