塩野七生が語る「衆愚性」と「ポピュリズム」 その似て非なる関係を解説

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■塩野七生『ギリシア人の物語II』刊行!「トランプ時代」の日本の針路(4)

作家・塩野七生さん

 作家・塩野七生さんの『ギリシア人の物語II』は、「民主政の成熟と崩壊」がテーマである。今回尋ねたのは「衆愚政」そして「ポピュリズム」という、昨今耳にする機会が増えた言葉について。「ファシスト」とくくられるムッソリーニとヒトラーの2人にも、実は大きな違いが……。

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――第2巻では、ペリクレス(民主政を完成させたとされるアテネ黄金期の指導者)の死後、アテネが衆愚政に陥った経緯が述べられています。

 トランプ大統領の出現やブレグジットなどによって、近年、メディアでは「衆愚政」について論じられることが多くなってきました。しかし、一方で日本人は実はその言葉をうまく飲み下せていないのではないかとも思います。

塩野「『衆愚政』という言葉は近年の学界ではあまり使われない、むしろ『ポピュリズム』という表現がふさわしい、とは書評にあった学者の評ですが、まずもって『衆愚政』という日本語の原語になった『デマゴジア』は、『デモクラツィア』(民主政)と同じくギリシア人が創り出した言葉です。

 一方、『ポピュリズム』は、19世紀になって英国人が言い始めた言葉。

 古代のギリシアを書いていて、それよりは2300年後の現代になって作られた英語を使うわけにはいかないでしょう。また、大きく譲歩して、昨今ではポピュリズムと言われるほうが多くなっている、と書き足すこともできませんでした。

 なぜなら、デマゴジアとポピュリズムは、似ていて非なる、ではないかと考えているからです。

 でもこれは後に述べるとして、なぜこの頃では『デマゴジア』ではなく『ポピュリズム』と言われるほうが多いのか、という問題も私の好奇心を刺激したんですね。

『衆愚政』という訳語が示すように、この政体の主権者は『衆』です。つまり、『民主政』の主権者の『民』と同じで、古代のギリシアでは『デモス』と呼んでいた一般大衆のこと。だから『衆愚政』という言葉を使うと、『衆』が『愚』、つまり『民衆』が『バカ』ということになってしまう。

 これが、善意あふれる学者たちには抵抗感を感じさせたのではないかしら。それが、『デマゴジア』ではなく、『ポピュリズム』に言い換えると、感じなくて済むようになった、というのがほんとうのところでは?

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