鉄道会社が就活生に「アイスクリーム、コーヒー、うどんのなかでどれが好きか」と聞く重要なワケ
春を迎え、街中のいたるところで黒や濃紺のリクルートスーツに身を包んだ若者を見かけるようになった。サクラと花粉症と並ぶ日本の春の風物詩、就活シーズンの到来である。
会社員の多くが通過してきたであろう就活。あの企業に入りたい、あんな仕事をしてみたいと夢見るのと同時に、企業から日々届く不採用通知、通称お祈りメールに頭を抱えていたことを思い出す人もいるだろう。
アイス、コーヒー、うどん、どれが好き?
さて、都内大学に通うAくんはただいま就活真っ只中。慣れないスーツを着込み企業の説明会に赴いたり、大学の友人たちと情報交換したりしているが、彼には幼いころから働くことを夢見ている会社があった。鉄道会社である。幼少期に鉄道に魅せられた彼は、時とともに立派な鉄道オタクとして成長。そして就活生となった今、彼が目指すのは“××鉄道”ただ一つとなっていた。
「こんなに××鉄道が好きなのだから、僕は絶対受かる」、そんな熱い想いをエントリーシートに込め、いよいよ迎えた一次面接。志望動機や大学でやってきたことなど、一通り想定していた質問に答え、そろそろ面接も終わりかな……と思った時、ふいに一人の面接官が口を開いた。
「あなたはアイスクリーム、コーヒー、うどんのなかでどれが好きですか?」
あまりにも想定外だった。いったいこれはなんの質問なんだ……。ぐるぐると疑惑が頭を巡り、Aくんの顔からは大量の汗が噴き出し、思わず口から出た言葉は「××鉄道の車内で食べるなら、どれでも美味しいと思います」だった。後日彼のもとには××鉄道からお祈りメールが届くのであった――。
さて、鉄道を愛するAくんは一体何がいけなかったのだろう。『キレイゴトぬきの就活論』(石渡嶺司・著)によれば、企業は「夢を語る学生の多さにうんざりしている」らしい。(以下、「」内『キレイゴトぬきの就活論』から抜粋、引用)。
鉄道会社に鉄道オタクはいらない
「鉄道会社には、全国の鉄道研究会などいわゆる鉄道ファン(鉄ちゃん)が大量にエントリーする。が、そのほとんどが最終選考にすら残らない。鉄道会社からすれば、鉄道研究会ないし鉄道ファンは、欲しくない人材だからだ」
同様に、食品・飲料メーカーの面接で「商品を企画したい」、サンリオで「ハローキティが好きでした」、オリエンタルランドで「ディズニーランドが好きです」、と語る学生も、「いいお客さんのままでいてください」と相当な高確率で落ちるという。なぜなのか。
「鉄道会社は鉄道事業だけをやっているわけではない。流通、不動産、観光、ホテル、バスなど多くの事業を展開している。(中略)どの鉄道会社にしても、鉄道事業部門しか配属を希望しそうにない鉄道研究会の学生など使いづらいから、門前払いをしている」のだという。
ちなみに先の「アイスクリーム、コーヒー、うどんの中でどれが好きか」という質問は実際にある鉄道会社が新入社員の研修中に聞く質問だ。そして選んだ商品を主力とする駅ビルの飲食チェーンに送り込むのだという。要は鉄道会社に入ってもまずは、テナントでアルバイトのような仕事をさせられるのだ。
だからAくんは面接であのような質問をされ、結果不採用となったのである。どれだけ××鉄道のことを愛していても、鉄道だけ好きな学生は求められていなかったのだ。
同著では他にも「学歴不問」「1年目から稼げる」などといった甘い言葉の矛盾や、「体育会系が使えない理由」「なぜ早稲田が慶應に負けるのか」など、声を大にして聞きづらい就職活動のホンネをあぶりだしている。
就活という戦場は、「夢を持て」と育てられた若者が「夢は夢のままで」という現実を知る場なのかもしれない。