塩野七生が説く「トランプ」対処法 見事だった“シュワちゃん流”

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■“何を得るか”ではなく“何を譲るか”

古代ギリシアの歴史年表

――EUは「同盟」なのでしょうか。それとも別の何かを目指しているのでしょうか。そしてなぜいま、後退しつつあるのでしょうか。

塩野「EUは、二度とヨーロッパの地で戦争を起こさない、という理念に立ってスタートした同盟です。ところが、第1と第2次の大戦で壊滅的な被害をこうむり、世界の指導的地位から降りざるをえなかったとはいえ、第2次大戦後の70年間、ヨーロッパ戦争ならば起っていない。

 ところが、平和で来た戦後70年の間に、当初の理念は忘れられ、代わりに各国のエゴが表面に出るようになってしまったんですね。経済力の低下も、各国に冷静な判断力を失わせる原因になっている。

 でも、ヨーロッパには、人生を快適に過ごすのに必要なストックがまだ豊富。いかに税金を安くしてくれても、私ならばシンガポールやロシアに住もうとは思わない。なぜって、退屈だから。国家も人間と同じで、いつまでも若者ではいられないんですよ。中高年になったヨーロッパには、それなりの生き方があるのです。ただ、ドイツが主導権を発揮しすぎるヨーロッパは、あまり期待できない。日本もイタリアも1度試みて失敗したけれど、ドイツは、2度も大戦を起こして2度とも敗北したんです。それって、他国との共生能力ということならば、バカということになりますよね。ドイツ人はあらゆる面で優れた能力に恵まれていても、勝って譲るという精神はない。同盟とは、勝った側が譲らないと機能できないという、むずかしい結びつきでもあるんです。

 日本も、他国との間で同盟を結ぶときは、それによって何を得るかよりも、何を譲るかをよく考えて行動に移るべきだと思う。その方が、長い目で見れば、得るものが多くなります。また、このような考え方をしてよい程度には、日本にはまだ国力もある」

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(3)へつづく

特別寄稿「塩野七生『ギリシア人の物語II』刊行!『トランプ時代』の日本の針路 前編」より

週刊新潮 2017年4月6日号掲載

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