塩野七生が語る「トランプ時代」の日本の針路

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■塩野七生『ギリシア人の物語II』刊行!「トランプ時代」の日本の針路(1)

作家・塩野七生さん

 作家・塩野七生さんが古代ギリシアの都市国家アテネの盛衰を描く『ギリシア人の物語』。先頃刊行された第2巻のテーマは「民主政の成熟と崩壊」である。時に民意が暴走を見せる「トランプ時代」に、日本は如何なる針路をとるべきか。

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――アメリカでトランプ大統領が誕生して、2カ月あまりが経過しました。各国首脳や既存メディアがトランプの発言に翻弄される一方、アメリカ国民の半数近くが支持しているのも事実です。古代ギリシアにも同様の「トランプ現象」があったことが、この作品を読むと、よくわかります。塩野さんは「ペリクレス以後」と題された第二部で、ペリクレス(民主政を完成させたとされるアテネ黄金期の指導者)が亡くなると民衆を煽る政治家が出てきた現象を書かれていますが、同盟国アメリカがそういう状態であるときに、日本はどう対処すべきでしょうか。

塩野「『同盟国アメリカがこういう状態であるときに日本はどう対処すべきか』という問いを胸で受けたとして、その後はゴールめがけてシュートするか、それともドリブルしながら好機を待つか、になります。

 私だったら、ドリブルしますね。待てる場合ならば待つ、待てない場合でも後を引かないで済むような形で何かはやる。つまり、お茶を濁す、ですね。

 なぜなら、トランプという人はほんとうに何かをやりたくて大統領になったのか、少なくとも私にはわからないからです。大金持にはなったし女にはモテまくったし、テレビに出れば高視聴率を稼ぐしで、たいがいのことはすべてやって、しかも成功し、あとは大統領選にでも出てみるかとなって出たら当選してしまった、という感じがしてならないのです。

 だから今、大統領として何をやろうかと考え中なのではないでしょうか。

 以前に歴史を舞台にした殺人事件を書いたことがあるのですが、そのときに考えたのが次のこと。
 まず、私ごときが考え出した犯人など、読者は必らず見通す。読者が予想できないようにするにはどうするか、と。結論は、書く私がわかっていなければよいのだ、ということでした。

 最後までわからないのでは小説ではなくなるから困るけれど、そこはよくしたもので、書きつづけてしばらくすると、私にはわかってくる。でも、少なくともその時点までは、いかなる推理小説マニアでも犯人の見当はつかないということだけは確か。本人がわかっていない以上、他人にわかるはずはないんですからね。

 トランプに対しても、こうでも考えて対処するしかないのでは? 言い換えれば、右往左往しないで彼の出方を待つしかない、ということです」

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