巨大津波を“予見可能”と断言…女裁判長が原発賠償訴訟で引き起こした激震

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出世は人並み

 先に述べたように、原裁判長は、国は津波が予見可能だったとしている。その根拠は、国の地震調査研究推進本部が2002年に出した「長期評価」。これは「三陸沖北部から房総沖の日本海溝で、M8クラスの地震が30年以内に起る確率が20%、50年以内では30%」としていて、ゆえに国を叱りつけているのだが、

「この長期評価については、専門家の間でも異論がありました。つまり、さまざまな議論のうちのひとつに過ぎないのです」(升田教授)

 例えば、公益社団法人「土木学会」は当時の福島第一原発の状況で巨大地震による津波に対応可能ととれる予測を出している。結果としてどちらが正しかったかはともかく、これを含め、当時、さまざまな機関がさまざまな予測を出していたのは事実なのだ。

「つまり、予見可能性は無限にあった。では、2011年3月11日以前の状況でいずれかの調査結果によって原発への対処をしろ、と一体誰が言っていたのか。この判決は国の責任を認めるという結論が先にあったのでは。その後付けとして、数ある評価の中から裁判に合わせたものを利用したと指摘されても、仕方がないのではないでしょうか」(同)

 これがまかり通れば、国は今後、自らの首を絞めることを恐れて、災害の予測やシミュレーションを出すのを控えるかもしれない。お好きな「安全性」の確保が結果的に大きく後退する可能性を、原裁判長は“予見”しただろうか。

 また、国の責任についても、判決は「2007年8月、国は東電から耐震性確認の中間報告を受けた。その際、津波対策が入っていなかったのに、規制権限を行使しなかった」として、賠償を命じている。

 しかし、先の升田教授は、

「冷静さを欠いた“辛い”判断。過去、最高裁が国賠請求訴訟について述べてきた枠組みから外れている」

 東海大学の池田良彦客員教授(刑事過失論)も、

「ひとつのデータであっても、危険を予知するキッカケにしなさいという議論は一般的には成り立つ。しかし、法的な賠償責任となると、根拠に乏しすぎます。このような形で認定基準を下げてしまうと、何でも訴訟を起こして国家に要求できる事態が発生してしまうかもしれません」

 6年にして訴訟がなお乱発する状態が本当の意味での“復興”に繋がるのかどうか。甚だ疑問が浮かんでくるのだ。

 この“問題判決”を下した原裁判長は、慶大法学部の出身である。卒業の2年後、司法試験に合格し、浦和、長野、千葉、名古屋、東京、宇都宮の各地裁を回り、4年前、前橋に赴任した。齢59。退官まで残り6年だ。

 法曹関係者によれば、

「出世のぺースとしては人並み。ちなみに、国賠訴訟の担当となる法務省の訟務局長は原さんと同期で、エースをやりこめたと話題となっています」

 稲田防衛大臣や西村眞悟元代議士も同期と、“個性派”揃いの年のようだが、

「原さんも知る人ぞ知る存在でした」

 と、先の関係者が続ける。

「7年前、桐生市で女子小学生がイジメに遭い、自殺した事件がありました。この時、被害者の母が加害者サイドを訴えた裁判で裁判長を務めたのが原さん。彼女は、加害者が位牌の前で手を合わせ、頭を下げることを条件に和解を成立させ、裁判官もそれに立ち会ったのです。通常の訴訟手続きを逸脱したもので、大きな話題となりました。官僚的でない、人情味ある裁判官との評価も成り立ちますが、逆に言えば、目立ちたがり屋とも言える。今回の訴訟も結論ありきで、ただ全国で初めて国の責任を認める判決を出したかっただけとの声もあります」(同)

 結果、

「各地で起こされている集団訴訟は、互いに連携していて、証拠や証人を共有している。ゆえに、ドミノ倒しのように、今後、国の賠償責任を認定する方向の判決が相次ぐこともある」

 と、前出の司法記者。

 激震の連鎖が続く場合、われわれはどんな未来を“予見可能”か。そしてその時、「女裁判長」は、どんな“責任”を取れるのだろうか。

特集「巨大津波を『予見可能』と断言!『原発賠償訴訟』で『女裁判長』が引き起こした激震の連鎖」より

週刊新潮 2017年3月30日号掲載

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