過去の罪が消せると思うか 「グーグル犯歴削除」を請求したタワケたち

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■“処置なし”の盗撮犯

 こうした請求は増加の一途である。最高裁によれば、グーグルやヤフーなどの事業者に対し、検索結果の表示の差し止めや損害賠償などを求めた申し立て事件は、昨年54件にのぼった。そこには、前述のケースとは異なり、犯罪と無縁ながらも検索で表示されてしまう「デマ」の被害者もいる。

 実際に最高裁が今回、あわせて退けた4件の削除請求の中には、こんなケースがあった。さる司法関係者が明かす。

「原告は30代の男性医師。2003年、早大のイベントサークル『スーパーフリー』の集団強姦事件が発覚しました。彼は当時、サークルのメンバーでしたが、一連の事件とは無関係だった。にもかかわらず、自分の名前を検索すると『スーフリ幹部』と表示され、犯罪に加担したかのような記述が後を絶たないため、11年9月、グーグルを相手取って訴訟を起こしたのです」

 裁判で男性は、

〈原告が「スーパーフリー」に入会していたことは広く人に知られたくない事実〉

〈摘示自体が、原告の社会的評価を低下させ得る〉

 そう主張したのだが、東京地裁は13年5月、続いて高裁も同年10月、それぞれ請求を棄却している。代理人の弁護士によれば、

「彼は逮捕されていないので、仮にネットで“有罪判決を受けた”と書き込まれてもプライバシーには当たらず、単なるデマでしかない。地裁判決は『検索結果の表示だけを見て、虚偽だと判断できない限りは削除しなくてよい』というものでした。つまり、デマなら原則として自由に載せられるという、ねじれた話になっているのです」

 犯罪集団と接点があったとはいえ、これはいわば“もらい事故”のパターン。かと思えば、退けられた4件には、まさしく盗人猛々しい男も含まれていた。

「京都府在住、50代の盗撮常習者です。09年、電車で女性のスカート内をビデオ撮影し、兵庫県警に条例違反容疑で逮捕されている。また12年にはサンダルにカメラを仕込んでスカート内をのぞき、同じく京都府警が逮捕。翌年4月には懲役8月・執行猶予3年の有罪判決が確定しました」(前出関係者)

 その後、ネット上での逮捕記事を削除すべく、男は13年9月、グーグルとヤフーの両社を相手取り、慰謝料など1100万円を求める訴えを起こした。が、

「14年8~9月、京都地裁で2件とも敗訴。15年には大阪高裁で、いずれも請求が棄却されています。本人は裁判で『軽微な犯罪。罪を反省して社会復帰を考えたが、逮捕歴が知られれば再就職にも支障が出る』などと主張したのですが、上告中の16年2月、またしても大阪・梅田の靴店で逮捕されてしまった。さらにその公判中の9月、今度は梅田の書店で、スカート内にスマホを差し入れて逮捕されているのです」(同)

 慰謝料やら社会復帰やら、まさしく“寝言は寝て言え”と言うほかない。

 こうした上告人らのよすがとなったのは、先に述べた「忘れられる権利」なのだが、京大大学院法学研究科の曽我部真裕教授によれば、

「東京高裁では『そのような権利があるわけではない』と、さいたま地裁の判断が明確に否定されている。最高裁もそれを支持したわけで、今後は法改正をしない限り、『忘れられる権利』が法的に認められることはないと思います」

特集「過去の罪が消せると思うか! 最高裁が棄却『グーグル犯歴削除』を請求したタワケたち」より

週刊新潮 2017年3月16日号掲載

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