朝日新聞「声」欄100周年 ひた隠しにした戦時中の“声”
朝日新聞社 渡辺雅隆社長
■「朝日新聞」がひた隠しにした戦時中の「声」(上)
夏目漱石の絶筆『明暗』が、朝日新聞での連載を終えた翌年、産声を上げたのが読者の投稿欄である。今年2月、朝日は開始から100年を記念する特集記事を掲載した。ところが、ひた隠しにしたい暗部には触れずじまい。読者に知られたくない不都合な真実とは――。
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〈今日まで、一番感激して聴いた歌は何であつたらうかと申せば、それは国歌『君が代』を聴く時であつた。(中略)毎日一定の時間にラジオで国歌を放送したならば、どんなによいかと思ふ。(中略)早朝の感激が一日中脳裡にあれば、職域奉公の上にも、どれだけ能率が上ることだらう〉――。
仰々しくも「国歌」と題された読者からの投稿を紹介しているのは、国歌斉唱を蛇蝎の如く嫌ってきた朝日新聞である。
これが掲載されたのは戦時中の1941年8月2日。投稿者は傷痍軍人療養所に入所している軍人であることを差し引いても、今の朝日であれば絶対に採用しない内容だろう。
朝日新聞の読者投稿欄が始まってから1世紀が経つ。もともとは、東京本社版で「鉄箒(てっそう)」と名付けられた随筆欄が始まりで、その後、お馴染みの「声」という名称に変わったという。
その歴史を紹介した2月5日付の朝刊は、これまでの読者からの投稿を振り返る「声 100年の歩み」と題した特集記事を掲載した。
この中で、朝日は「声」欄の果たした役割を、
〈政治や社会への読者の思いを伝え続け、世相を映し出し、時に世の中を動かす力にもなりました〉
と、自賛した上で1917年から現在までの重大な出来事を記した年譜を掲載して、世相を映す投稿を再録しているのだ。
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