部員10人で甲子園 「不来方高校」必見の超攻撃型スタイル

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 コンプライアンスなるものにビクビクして脇を固める我ら哀しき勤め人にとって、胸がすく話である。3月19日に開幕を迎える春のセンバツに、史上最少人数の部員10人で初出場する岩手県の不来方(こずかた)高校。彼らは守備度外視の超攻撃型スタイルで甲子園に挑むのだ。

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まもなく開幕!

「野球は楽しむことが一番。選手たちも、打って点を入れるのがとても楽しそうです」

 と、同校野球部の小山健人監督は楽天的に語る。

 県立高校で強豪校ではない上に、部員が集まらず、わずか10人で練習を続けてきた不来方高校は、少人数で奮闘してきたことなどが評価され、「特別枠」の21世紀枠でセンバツへの切符を手に入れた。とはいえ、実力が伴っていないわけではなく、昨秋の県大会では準優勝を飾ってもいる。その力の源は、先に小山監督が述べた「攻撃」。なにしろ、練習の9割を打撃練習に割いているのだ。

「もともと、うちには接戦で勝ち抜く底力がないこともあり、甲子園を目指すなら打ち勝たなければならないと考えていましたが、昨年の夏、3年生が抜けて部員が10人しかいなくなってしまった。現実問題、ランナーを置いての実戦的な守備練習なんかはできないんですよ」(同)

 いわば瓢箪から駒の超攻撃型スタイルでもあるわけだが、地区大会では9対5、13対3といった具合に文字通り打ち勝ってきた。

■「エラーを責めない」

 例えば、レフトを守る2年生の菅原岳人くんは100キロの巨漢で、母親の吏香(りか)さんが、

「守備の動きは確かに鈍いですね」

 と認め、同校野球部OBの昆(こん)竜洋さんも、

「ボールへの反応が遅いので、ダイビングキャッチになってしまうことが多い」

 こう証言する。一方で、その巨躯から想像できるようにパワーヒッターであり、周囲からも守備より何より「一発」を期待されている。兎(と)にも角(かく)にも、

「エラーを責めないようにしています」(小山監督)

 という、攻撃野球を実践している不来方高校。そこで思い出されるのは、2014年に日本テレビ系列で放送された二宮和也主演のドラマだ。とにかく打ちまくることに専念して成長していく弱小高校の選手たちを描いて話題を集めたこのドラマは、あるノンフィクション作品が原作になっていた。『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』(新潮文庫)である。

 同作の著者でノンフィクション作家の高橋秀実(ひでみね)氏は、

「1番が塁に出て2番が送るといった野球のセオリーとは強豪校同士が戦う時のもので、開成高校のようにそうでない学校はそれでは勝てません」

 とした上で、不来方高校にこうエールを送る。

「非強豪校は、野球のセオリーという『思い込み』から離れ、勝負に勝つにはどうしたらいいかを考えなければならない。これを突き詰めると、0点では絶対に勝てないわけですから、どうやって点を取るかに行き着く。不来方高校が守備よりも打撃に力を入れているのは戦略的に正しいと思います。甲子園で大量得点し、『こういう戦い方があったのか』と見せつけてくれたら、非常に歴史的なセンバツになるでしょうね」

 楽天的な不来方野球部の、楽点野球に乞うご期待。

ワイド特集「春の嵐おさまらず」より

週刊新潮 2017年3月9日号掲載

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