東京新聞編集委員の「独白本」に正男が抱いた「恨」の念

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〈私と家族に対する懲罰の命令を撤回してほしい。私たちは行く場所も逃げる場所もない。逃げ道は自殺だけだ〉。金正男氏が金正恩にそんな内容の手紙を出して許しを請わざるを得なくなったきっかけの1つとなったのが、2012年に東京新聞の五味洋治編集委員が上梓した『父・金正日と私 金正男独占告白』だ。正男氏が五味氏に抱いた「恨(ハン)」の念は相当なものだったようで……。

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「恨」の念は相当だったよう

 2月17日、金正男氏が暗殺されたことを受けて会見した五味氏はこう述べた。

「金正男氏には、私がこれまで積み重ねてきた取材、Eメールについて、本にしてもいいかということについては許可を受けています。ただし、『タイミングが、今は悪い、ちょっと待ってほしい』と言われたのは事実です」

 が、五味氏は本の出版を強行。正男氏はそれをどう捉えていたのか。

■「仕方がない」

「本当に怒っていましたよ。“待ってくれ”と頼んだのに出版を強行してしまったこともそうですが、何より本の中身がまずい。何しろ、あの本では、“権力世襲は、もの笑いの対象になる”などと北朝鮮の体制を批判する正男氏のメールや発言がそのまま紹介されていますからね。あの本を出したせいで正男氏と五味氏の交流が途絶えたのは当然のことです」(正男氏の知人)

 もっとも、正男氏と連絡が取れなくなったのは五味氏だけではなく、

「それまで正男氏とやり取りをしていた他社の複数の記者も彼と連絡が取れなくなって困っていた」

 と、さるジャーナリストは明かすし、14年にマレーシアで在日韓国人ジャーナリストと共に正男氏に直撃取材したことのある、報道プロダクションCWV代表の細谷淳氏もこう話す。

「正男さんは“メディアとは一切、関係を絶った”と言い、こちらサイドが、記事にしないことを条件に話してもらえないか、と提案しても“記者はそう言いながら結局は書くじゃないか”と譲らなかった」

 当の五味氏に聞くと、

「金正男の死と私の本を関連付けて批判する声が多くあるのは知っていますし、それは仕方がないと思っています。私は、もう少し時間がたったら、今回の件がなぜ発生したのかを取材したいと考えています」

 それは、正男氏が抱いていた「恨」の念と向き合う取材になるのだろうか。

特集「『金正男』暗殺は『金正恩の指令』に疑義あり」

週刊新潮 2017年3月2日号掲載

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