金正日の料理人、生きていた 北朝鮮はプロパガンダに利用
「金正男暗殺」の報が世界中を駆け巡ったこのタイミングで、偶然にも「生存」が確認されたのは何の因果か。故・金正日総書記の料理人を務めたことで知られる藤本健二氏が北京経由で平壌に入ったのは昨年夏の終わり頃。以来、音信不通となっていたため「死亡説」まで流れていたのだが、何のことはない、平壌で無事に日本料理店をオープン、元気に鮨を握っていたのである。そんな彼について、北朝鮮は如何なる「利用価値」を見出しているのか。
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「井上」にてラーメンを食す藤本氏
2001年に脱北するまでの13年間、料理番として金ファミリーの様子を間近で見続けた藤本氏。彼が今回、平壌に入ったのは日本料理店ではなくラーメン屋を始めるためだった。
「藤本さんは12年7月に金正恩氏に招かれ、脱北して以来11年ぶりに平壌を訪れて正恩氏らと面会。その宴会の際、藤本氏が通っている築地のラーメン屋の話になり、正恩氏が“ぜひ食べてみたい”と言ったとされています」(藤本氏の知人)
その築地のラーメン屋は「井上」という店で、
「藤本さんはわざわざ『井上』の店主に頼み込んでラーメンの作り方を教えてもらっていた。そして今回、ようやく『井上』の味を再現したラーメン店を平壌に出せる、と張り切って出かけて行ったのです」(同)
だが、その後待てど暮らせど藤本氏のラーメン屋がオープンしたとの情報はもたらされず、本人からの連絡もない。“ついに消されたか”なんていう声も上がっていたのだが、なぜか彼はラーメン屋ではなく「たかはし」という名の日本料理店をすでにオープンしていたのだ。しかも、北朝鮮専門旅行会社の「ジェイエス・エンタープライズ」社(以下ジェイエス社)は、その「たかはし」での夕食を含む2泊3日の平壌ツアーを20万2000円で売り出し始めたというから何とも気の早いことである。
■「死亡説」を笑う
数奇な「料理人」人生
「弊社のお客様から『たかはし』に立ち寄られた際のお話を聞き、良い企画になりそうだと判断したので、ツアーを始めました」
と、ジェイエス社の社員。
「そのお客様に聞いたところでは、『たかはし』は『楽園百貨店』の隣のビルにあり、広さは10坪ほど。藤本さん以外には現地の方と思しき男性と女性が1人ずつ働いており、男性の方は厨房に入っていて、藤本さんに“バカヤロー”なんて言われながら料理の手伝いをしていたそうです」
刺身や握り鮨を堪能したこの客は、藤本氏にいくつか質問もしたという。
「“日本の知人に電話をかけないのか”と聞くと、“かけられるわけないだろ”と言っていたらしい。“死んだのではないか、と書いている雑誌もある”と言うと、“そうか〜”と笑っていたそうです」(同)
「たかはし」で調理をする藤本氏
日本に帰る気はあるのか――という質問は出来なかったようだが、藤本氏はこのまま彼の地に骨を埋めることになるのだろうか。
「藤本氏本人が自身の今後についてどう考えているかは分かりませんが、彼が今後も北朝鮮のプロパガンダに利用されるのは間違いないと思います」
とは、北朝鮮に詳しいジャーナリスト。
「そもそも、彼が脱北せざるを得なくなったのは、金正日の料理人をやっている時に、日本の情報機関と連絡を取り合っていることがバレてしまったから。そんな“裏切り者”が、12年に正恩氏と面会できたのは、北が彼に利用価値を見出したからに他なりません」
確かに、藤本氏は帰国後、正恩氏を褒め称えるような発言を繰り返していた――。
特集「『金正男』暗殺は『金正恩の指令』に疑義あり」