24年前の「トランプ」日本講演録 “日本人はグレートだ”の仰天発言も

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■「日本人はグレートだ」24年前のトランプ日本講演録(上)

日本外国特派員協会での講演(FCCJアーカイブより)

〈私がアンチ日本であるという報道がなされますが、実際は正反対です。私は日本や日本人がこれまで可能にしてきたことについて、信じられないくらい尊敬の念を持っていますよ〉

 グレート、リスペクト……。今では考えられない言葉が飛び出しているが、これは24年前の1993年8月18日、東京の日本外国特派員協会(FCCJ)でトランプが講演をした際の、彼自身の発言なのだ。

「この時のトランプは、47歳。人生でもっともドラマチックな時期を迎えていました」

 と言うのは、FCCJの関係者。

「80年代に航空機ビジネスに参入したもののうまく行かず、巨額の債務を抱えてしまう。カジノもホテルも不振で、不動産王どころか借金王だった頃の貴重な肉声と言えるでしょう」

 カジノの視察などのため、香港やニュージーランドを訪れる途中、日本に寄った。そこで、特派員からミーティングを依頼され、世話になっている日本の友人のために引き受けた。それが講演理由だが、苦境の最中にいたからなのか、

「通して聞けば、彼の性格や本音が実によくわかる」

 と言うのは、音源を聞いた、ジャーナリストの徳本栄一郎氏である。

「全体を聞くと、特筆すべき点は3つ。日米貿易、安保問題についての考え方、そして、トランプが大切にするものが何かが極めて明確にわかる会見でした」

■“ダラス・カウボーイズと高校のフットボールの試合”

 具体的に見ていこう。

 まず、日米間の貿易についてはこんな具合だ。

〈私は日本のやり方に感心します。米国の間抜けな通商交渉代表に対し、日本の代表が挙げた成果に尊敬の念を持ちます。非常に尊敬します〉

 自動車、半導体から牛肉やオレンジまで80年代から90年代にかけて激しく戦わされた、日米通商交渉。彼によれば、この交渉で、

〈日本のネゴシエイターは、彼らに有利な条件をきわめて巧みに引き出し、交渉をつつがなく進め、何も譲歩することなく、ただアメリカのバカな交渉者に“ありがとう”と言わせることに成功したのです。ブッシュ政権やその前の政権代表が交渉に臨むところを見た時に私はしばしば驚嘆させられました。こうして日米両国間には、何百億ドルもの貿易不均衡があるのです〉

 そして、日米の交渉能力の差を、

〈それはまるで、ダラス・カウボーイズと高校のフットボールの試合のようです〉

 とまで評するのである。

■面倒くさいタフネゴシエーター

 もっとも、振り返るまでもなく、日米通商交渉において日本が大幅な妥協を強いられたことも少なからずあった。その点で、彼の史観には首を捻らざるを得ないが、逆に言えば、トランプはそれでも“アメリカの負け”と感じるほどのナショナリストということか。

 それが証拠に、その直後、

〈この話は部屋の中に留めておいてください。いいですね、記者の皆さん、オフレコにしてくれますね〉

 ともったいぶりながらこう述べている。

〈「30日後に日本が自由で開放的な貿易に応じなければ、アメリカで車やビデオ、テレビなどの日本製品が販売されることはありません」。こう我々のネゴシエイターが交渉したとしても、何の影響もないのです。何の反応も起こらない。しかし、そんなことは誰も言いません。なぜならアメリカ人はお人好しだからね〉

 先の徳本氏が言う。

「つまり“なぜもっと強気に出ないんだ”と米国政府に不満を述べている。ウラを返せば、自分が交渉人ならそうするよと言っているのです」

 相手に恐れを抱きつつ、過大な要求を突き付ける。つまり、油断なしにハードな交渉に臨む。単純な暴言王ならまだ与(くみ)しやすいが、安倍首相は実に面倒臭いタフネゴシエイターと向き合わなければならないというワケなのだ。

 ***

「日本人はグレートだ」24年前のトランプ日本講演録(下)へつづく

特集「『トランプ』の神経毒は日本の薬か?」より

週刊新潮 2017年2月16日梅見月増大号掲載

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