「リツイートしただけで逮捕」中国共産党が怯える風刺漫画
習近平政権でひどくなった弾圧
辣椒 石平さんの学生時代に比べると、私の学生時代は単純です。1991年に美術系の中専(専門学校)に入ってデザインを専攻したのですが、最初の年は失恋してやる気を失い、やがて改心して勉強しました。卒業後は広告業界でデザインを製作しました。
石平 変態辣椒として活動を始めたのはいつですか?
辣椒 初めてこの名前を使ったのは2006年です。当初は政治漫画を描こうとは思わず、デザインを載せたり、意見を書いたりしていました。それで多少知名度が上がりました。今のような創作をしていたわけではないのですが、それでも湘潭という湖南省の中小都市に住んでいた2009年1月に危うく警察に捕まりそうになりました。
石平 それはどうしてですか?
辣椒 私が入っていたQQ(中国のソーシャルネットワーク)で政治の話をよくしているグループがありました。私はグループ内ではあまり発言せず、主に見るだけだったのですが、チベットと新疆ウイグルについて書かれた文章をそこに転載しました。その時、私はこのことが危ないとは考えなかったのですが、まもなくして警察が家にやってきました。
私は捕まりませんでしたが、警官は私の家族に対して「この街でこんな反革命的な言論は見たことがない。省都・長沙の安全局に通報して捕まえる」と脅しました。そこで騒ぎが収まるまで数ヵ月間上海に逃れていたのです。私はこの時の気持ちを絵で表現したいと思い始め、変態辣椒の名で政治漫画を描き始めました。
石平 辣椒さんはインターネットの文章を転載しただけで捕まりそうになった。もし湘潭でそんなことがなければ今ごろは芸術家として中国で悠々自適の生活をしていたかもしれません。芸術家として社会に関心を持ち、不満な点を表現することはきわめて正しいあり方のはずですが、それを中国政府は許さない。いかなる人も独立した思考を持つことは許されず、いかなる人も良心から批判をしても敵とみなされてしまうのです。
辣椒 私を海外に向かわせたのは中国共産党ですが、それは私のような政治漫画を描く人間には表現の自由が必要だからです。ただし、表現の自由があると言っても、海外にいる中国人も本来ならば中国の政治環境から独立を果たしているわけですが、実際には独立していません。海外中国人の中には「変態辣椒は海外からお金をもらっている。付き合うのはやめよう」などと言う人もいると聞きます。
石平 海外中国人からはしょっちゅう批判を受けます。私の文章を読んだこともなく批判する人も多いので、「読んでから言ってほしい」と言いたい気持ちです。
辣椒 2015年あたりか、中国国内のインターネットサイトで「石平は1949年以来最大の海外における漢奸(売国奴)だ」と書かれていました(笑)。
石平 そういう言われ方は光栄すぎるぐらいですよ(笑)。辣椒さんは日本に来るまで中国で政治漫画を描き続けましたが、その時の心境はどうだったのですか?
辣椒 当時の私の中には矛盾した心理がありました。1つは中国でこういう活動をすると、圧力が強くて大変しんどかったこと。その一方で表現したいことはそういう圧力でもあったわけです。
また、中国の読者からも励まされました。「国内でこのような漫画にはなかなか出会えない。頑張って続けてください」などと。とは言え、警察から捕まるなどの圧力がずっと続きました。この苦しみは日本に来てからも続いています。
石平 たとえば?
辣椒 私は日本に来てから何度か、中国の警官が日本にやって来て私を拘束する夢を見ました。それは夢ですが、実際に人通りの少ない夜道を1人で歩いている時に誰かから後をつけられたこともあります。
石平 習近平政権になって中国はますますひどくなっています。
辣椒 中国にいた頃の話ですが、北京で捕まった時に警察の眼を盗んでブログに現在の状況を投稿しました。それを見た妻が知り合いの弁護士らに相談したところ、投稿したことで3ヵ月以上拘束されるのではないかと心配しました。
このように当時は確かに圧力が大きく、警察署には私に対する抗議の電話がたくさん来ました。ですが、今にして思えばたいしたことではなかったとも思えます。今だったらそのようなことさえもできないのではないかと。今や私の漫画は中国で話題にすることも危ないのです。
2016年9月7日に習近平を諷刺する漫画を描きました。それをネット上で転載した2人が翌日、翌々日と立て続けに捕まりました。うち1人は10日間も拘束されたそうです。転載したぐらいでそうなるのですから作者は何年も捕まるに違いありません。
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