使用済マタニティマーク出品も 真偽不明の「妊娠菌」ビジネス
ピコ太郎のPPAPはご存知という向きも、「赤富士」や「妊娠菌」には首を傾げるのではないか。実は、こちらも歴(れっき)とした流行語。ただし、不妊に悩む女性たちの間だけで爆発的に広まった「奇習」なのだ。
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森三中・大島美幸
2度の流産を乗り越えて男児を出産した、森三中・大島美幸は著書にこう記している。
〈「子宝赤富士」のジンクスって知ってる? 陣痛中の妊婦さんが描いた赤い富士山と太陽の絵を飾っておくと、「妊娠菌」がうつるっていうもの。私もいろんなかたに赤富士をいただいたので、ご恩返しに今回の陣痛のときに描いてみたよ〉
この「赤富士」「妊娠菌」が、多くのママタレを巻き込んでブームになっているという。一方で、流行に乗じて小遣い稼ぎに勤しむ向きも少なくない。いわば「妊娠菌ビジネス」である。
マタニティ誌に寄稿するライターによると、
「個人間で雑貨や日用品を売買するフリマアプリでは、このところ“妊娠菌”関連のグッズが飛ぶように売れています」
確かに、大手のフリマアプリで「妊娠菌」を検索すると4000件を超える商品がヒットする。
赤富士のイラストは300〜500円が相場ながら、出品者によっては1人で数十枚近く売り捌く強者も見受けられる。
その全てを陣痛に耐え、歯を食いしばりながら描き上げたとすれば、産婦人科のスタッフもさぞかし呆気にとられたことだろう。
「“妊娠菌のお裾分け”と銘打って、子供ができた時に食べていたというお米を1合単位で出品する人もいる。葉に沢山の新芽をつける“子宝草”も人気の妊娠菌グッズです。出品者が懐妊前に使っていたという基礎体温計や、男女の産み分けに効果があるというローションは3000〜4000円で売りに出ています。また、兵庫県但馬のご当地商品である“こうのとりキティ”も定番。コウノトリがキティちゃんを咥えているデザインのストラップですが、その嘴が折れたら吉兆と言われている。他にも、使用済みの“マタニティマーク”はよく取引されていますね」(同)
■熊田曜子「気持ちは理解できる」
熊田曜子
商品に共通するのは、妊婦や子持ちの主婦からの「直販」という格好を取り、殊更に「妊娠菌」のご利益をウリにしている点だ。
「“これを身に着けていたら、すぐに子供を授かりました!”“購入者からもオメデタ報告がありました!”といった宣伝文句が氾濫しています。なかには、胎児のエコー写真まで添えて“ご利益”を演出する出品者もいるほど」(同)
さすがにやり過ぎの感は否めないが、それでも「妊娠菌」グッズを購入する女性の心理を、2児の母親となった熊田曜子に代弁してもらおう。排卵チェッカーで「営み」の日を決め、「行為」後には逆立ちまでして妊活に励んだ彼女によれば、
「妊娠は授かりものなので、何が効くかは分かりませんが、母体のメンタルはとても大きいと思います。私も妊活したので、何かに頼りたくなる気持ちは理解できます。そんな気持ちを受け止めてくれるものが、妊娠菌がついたグッズなのではないでしょうか」
■エヴィデンスも効果もない
だが、彼女と同様、真剣に妊娠を望む女性の気持ちにつけ込んだ、真偽不明の「妊娠菌」ビジネスが野放しになっているのも事実。
「妊娠菌という言葉は20年ほど前に患者さんとの面談のなかで耳にしました。ただ、専門医として申し上げると、赤富士や妊娠菌に科学的なエヴィデンスはなく、効果も見込めません。未だに流行っているとは驚く他ないですね……」
と嘆息するのは、不妊治療が専門の産婦人科医・森本義晴氏である。
「不妊治療に訪れる患者さんは精神的に追い詰められ、パニック障害やうつ病を発症しているケースも少なくない。そのため、私どもは心理カウンセラーと相談して、精神の安定を取り戻すことから治療をスタートさせます。ただ、治療によって誰もがお子さんを授かるという保証はありません」
患者は常に孤独と不安を抱え、藁にも縋るような思いで治療に臨むため、
「どうしても“救い”に飛びついてしまう。妊娠菌という言葉が流行るのはともかく、それを利用して商売するのは悪質です。精神的に不安定な女性をカモにしているのであれば、社会的犯罪になりかねない」(同)
先の熊田もこう続ける。
「赤富士を渡されてプレッシャーを感じる方もいると思います。その方の性格や考え方を酌む必要がある」
幸せのお裾分けだったはずの「菌」が、実害をもたらしては話になるまい。
特集「陣痛最中に描いた『赤富士』が大ブーム?『ママタレ』を巻き込む『妊娠菌』という奇習ビジネス」より