シャツの襟は切り取り、ナイキのロゴは塗りつぶす…中崎タツヤ氏の凄まじいライフスタイル
押し入れで“熟成”
そんな彼の極限のライフスタイルを覗かせて頂こう。
「家にあるのはテーブル、イス、テレビ台、テレビ、背もたれ付きのイスが2脚です。雑誌や書類などは一切置かない。自室は扇風機とボディバッグ、イス1脚。押し入れには、洋服、銀行のカードなどをまとめた袋、書類、車のカギが入っています。奥さんの部屋もベッドしかありません。あまりにもモノが少ないので、年に1回の火災報知機の点検で、毎回『本当に住んでるんですか?』と訊かれます」
ここまでなら想定内だろうが、本当に凄まじいのはここから。彼はボールペンの無駄な部分も我慢できない。インクが減れば、その分だけ軸を切って短くする。クリップを削ったことも。
「軸は、切った断面をライターで溶かして、尻の部分と接着し直します。最近はシャーペンも短くしている。本来、芯の長さがあれば充分なのに、あれは少し長めに作っている。10センチちょっとあるのを、7~8センチにしています。でもこれはなかなか難しくて、最初は失敗続きだった。無我夢中で取り組み、5~6本目でやっとうまくできました」
かつて着用していた襟付きシャツからは襟を切り取った。こうすれば首の部分が汚れにくいという利点もある。服のワンポイントも嫌だから、ナイキのロゴはマジックで黒く塗りつぶした。本も、読み終えたページから捨てていたと言う。
「以前はバイクにも乗っていたのですが、泥除けのフェンダーが無駄だとずっと思っていて、ある時、外しました。すると、雨の日に全身、泥だらけになってしまったんですね。それで外したフェンダーを小さく切って、付け直しました」
物への執着が皆無と思しき氏だが、捨てるかどうか躊躇することもままあるとか。そんな折、氏が採るのが「捨てにくいけど、捨てたいモノを捨てる方法」。
「とりあえずそのモノを一度、押し入れに収納するのです。すると、存在を忘れていきますから、何年かしたら捨てやすくなる。ある時、掃除機を買ったのですが、音がうるさかったので、その日のうちに捨てたことがある。その時はさすがに心が痛みました。だから、押し入れで“熟成”させることが多くなった。1年くらい置くと、何の躊躇もなく捨てられるものです」
こうして強化された“捨ての生理”は、自身の仕事にも容赦なく向かう。
「描いた漫画はデジタル化して保管していました。しかし、パソコンを捨ててしまったので、今はそれもありません。原画もデジタル化で捨てたのでありません。自分の本も手許にありません。例外的に、『じみへん』の最終巻だけが4冊残っていますが、それ以外は1冊もありません。現在は漫画の執筆はしていませんし、今後することもありません。描きたくなることは、もうないでしょうね。だから執筆道具も捨てました」
畳み掛ける「ありません」に気圧されるばかり。
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