プーチンの怒りを訳せず…お粗末だった首脳会談の同時通訳

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プーチン大統領

 首脳会談の「見せ場」は、密室での会談そのものより、むしろ全世界に向けて発信される共同記者会見とも言える。それは同時に、通訳にとっての晴れ舞台でもある。だが、プーチン大統領の怒りによって、「雨舞台」に変わってしまった。

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 テレビで生中継された12月16日の共同記者会見を観た、ロシア語が堪能な国際問題研究家の瀧澤一郎氏は、

「NHKの同時通訳は何を言っているか分からず、とにかく下手でした。そのリスニング能力はロシアだと高校も卒業できない程度」

 と、ばっさり斬り捨てる。

「例えば、プーチンの『とりわけ、今朝は雪が降っておとぎ話のようにきれいだった』という発言を、『今朝も美しい場所を訪れることができ……』と通訳していました。『スカーザチヌィ』という『おとぎ話のような』を意味するロシア語を知らなかったか、聞き漏らしたせいでしょうね」

 このくらいであれば、受け流せなくもない話だが、

「ひどかったのは、日本人記者のある質問にプーチンが答えた時でした」

 こう振り返るのは、大手紙の外務省担当記者だ。

「『日本に柔軟性を求めるのであれば、ロシア側はどんな柔軟性を示すのか』と訊(き)かれたプーチンは、要はお前はどんな妥協をするのかと突き付けられた格好となり、顔を赤くして、まくしたて始めました。そして、あたかも質問した記者が不勉強とでも言うかのように、急に19世紀からの北方領土史を披歴(ひれき)し始めたんです。古い歴史上の人物の固有名詞が出てきたこともあり、またプーチンが怒りに任せて早口で喋っていたせいもあって、確かに同時通訳するのは難しかったかもしれませんが、どう贔屓目に見てもお粗末でした」

 それはこんな具合だった。まずプーチン氏の発言を正確に訳すと、

「日本は南千島列島を1855年に獲得した。プチャーチン提督が最終的にロシア皇帝の同意を得て、それらの島々を日本の法治下に引き渡した」

 ところが、NHKではこう同時通訳されたのだ。

「日本は南千島列島を……(沈黙)……帝国間で……(沈黙)……条約が結ばれた時に……」

 プチャーチンもロシア皇帝も、跡形もなく歴史の闇に葬り去られてしまったのである。天をも恐れぬ大胆不敵な「割愛」、というか通訳云々(うんぬん)以前に、日本語としてすら意味不明だ。

「ロシア語が使えてもなかなか仕事がないため、いい通訳は人材不足なんです」(ロシア情勢に詳しいユーラシア21研究所理事長の吹浦忠正氏)

 NHKの同時通訳の質は、安倍総理が強調した「信頼関係」とは裏腹に、決して密とは言い難い現在の冷めた日露関係を象徴していたのかもしれない。

特集「元KGB『プーチン』大統領に期待する方が大間違い! 新聞が書かない『おそロシア首脳会談』7つの不審」より

週刊新潮 2016年12月29日・2017年1月5日新年特大号掲載

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