「主人と長年関係のあった女性は4人」 妻が語る徳大寺有恒

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 40年前、96万部のベストセラー『間違いだらけのクルマ選び』を世に送り出した自動車評論家の徳大寺有恒(本名・杉江博愛)。多くの読者に支持されたのは、ユーザーの目線に立ったこと。それだけでなく、批判の対象である自動車メーカーへも優しさを感じさせるアドバイスを送っていたからだ。私生活でも妻の悠子さんだけでなく、他の女性への優しさを忘れなかった。

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 主人と初めて会ったのは、私が18歳で向こうが20歳の時でした。私は高校を卒業してデパートに就職したばかり。会社の先輩方が歓迎パーティーを開いてくれるというのですが、デパートは女性の多い職場です。そこで先輩の1人が“女の子ばかりじゃ”といって、成城大学に通う男の子に声をかけたのです。歓迎パーティーに来てくれた男の子たちの1人が主人でした。私のタイプではありませんでしたが、彼の方から“踊りましょう”とダンスに誘ってきたのです。一曲終わってひと息つくと、また“踊りましょう”と、その繰り返しでした。

 押し切られるような形で付き合い始めて、結婚しましたが、プロポーズの言葉はありませんでした。式を挙げたのは東京オリンピックのあった1964年の11月14日で、式場は帝国ホテル。当時、主人はレーサーを辞めて自動車用品会社「レーシングメイト」を経営していました。主人の仕事は順風満帆に思えましたが、結婚の5年後に会社が倒産。詳しい事情は教えてもらえませんでしたが、当時、主人は“お金がなくてもなんとかなる”と口にしていた。一時、主人の実家のタクシー会社を手伝っていましたが、すぐに東京に戻り男性向けファッション誌「チェックメイト」の契約編集者や、「月刊自動車」などのライターとして記事を書き始めていました。

■悠子が一番大切

 日頃から、主人は私に隠し事をするタイプではありませんでした。本が売れて銀座に飲みに行くようになっても、自宅の机の上にホステスさんの名刺を置きっぱなしにする。私が“捨てていいの”と聞くと、「ちょっと待って。可愛い子なんだよ」なんていうのです。デビュー作が売れたから調子に乗るような人ではなく、主人は昔から女好き。関係を持った女性がいる場所にも、平気で私を連れて行く。とてもオープンで、私に「俺は付き合う時、“女房とは絶対に別れない”と必ず口にするんだ」とか、「自分から別れたことは一度もない」と。この言葉を聞いた時、「いい男だな」と思いましたよ。自分から手をつけて嫌になったらポイじゃ、男として格好悪いじゃないですか。

 女性はよく“浮気をされたら別れる”なんて、いいますよね。でも、実際に浮気がばれて別れるのはごく僅か。別れないのにゴチャゴチャいうケースが多いでしょう。それなら別れた方がいいし、別れたくないなら何もいわない。私はそう考えたのです。

 女性関係で主人に口を出したのは1度だけ。ライターの仕事をする前に短期間、赤坂の会社で仕事をしていた時に同僚の女性と深い関係になった。正月、突然、主人が「同僚と麻雀を打つ」といって出かけようとしたので、彼女のところへ行くとわかった。さすがに正月から女性のところへ行かれるのは嫌だったので、「私も行く」というと、「じゃあ、止めるよ」とね。

 私が知る限り、主人と長年関係のあった女性は4人。その中には、人前に出る仕事の女性もいました。主人が入院した15年ほど前、久しぶりに病院でお会いしたら、ロングヘアが短くなっていた。私が「髪が短くなりましたね」といったら、主人が横から「こっちの方が似合うから、切らせたんだ」といいました。

 主人が私を蔑ろにすることはありませんでしたし、誰よりも大切にされたと感じています。「悠子のことが一番大切だ」と口に出してくれました。髪を切ってあげると、「悠子は上手だな」と褒めてくれたし、食事も「美味しかったから、全部食べちゃったよ」と、きれいになったお皿を嬉しそうに見せてくれる。こんな言葉があったので、多少浮気をしても咎める気持ちにはなりませんでした。

 亡くなったのは2年前の11月7日で、金婚式の1週間前でした。前日の夜10時頃、主人は「ありがとう。明日も宜しくね」といって寝室へ向かいましたが、それが最後の言葉になってしまいました。

 主人が寝室へ向かった後、しばらくすると鼾が聞こえてきたので、おかしいと思って見に行くと穏やかな顔をしているのですが、声をかけても反応がない。すぐに救急車を呼んで病院へ行きましたが……。死因は、急性硬膜下血腫でした。

 欲しいものを買って、やりたいことをやって幸せな74年間の人生だったと思います。主人がどんな人だったかと聞かれたら、“格好良かった人”と答えるでしょう。

特集「デスパレートな妻たち Season5」より

週刊新潮 2016年12月22日号掲載

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