漢方大手ツムラが売る“社員に飲ませられない”生薬 中国産原料に「想定外の農薬」

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 ひきはじめの風邪に効くとされる「葛根湯」は、広く知られた漢方薬のひとつ。これからの季節には、薬箱に欠かせない家庭も多いのではないだろうか。その漢方薬最大手「ツムラ」に重大疑惑が発覚。内部文書には、目を疑いたくなる衝撃的な一文が記されていた。

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ツムラが販売している漢方薬

 前身の津村順天堂は1893年創業という、老舗製薬会社「ツムラ」。かつて大ヒットした入浴剤「バスクリン」の会社と言えば馴染み深い世代も多かろうが、それは一昔前の話だ。

 バブルに乗じた多角経営や、創業者一族の元社長による特別背任事件によって、一時は倒産寸前にまで傾くものの、2000年代には漢方薬に特化した製薬会社として再出発。今では、市販の漢方薬だけでなく医療用漢方薬のメーカーとして国内シェア8割を持ち、昨年度の売上高1126億円を誇る漢方薬会社として復活を遂げていたのだが――。

■許可していない農薬が検出

本社は赤坂の一等地

 ここに一組の内部文書がある。今年7月5日にツムラ本社7階の会議室で行われた、社長をはじめとする社内の役員、執行役員全員が出席した、役員会議の際に用いられたものだ。タイトルは「生薬GACPの現状と今後の農薬管理について」と書かれ、社内の生薬本部が作成していた。

 ツムラの幹部によれば、

「この資料は、中国産の生薬原料からツムラが使用許可を出していない農薬が検出されたため、再発防止を図るには、今後どのような対策を取るべきかが書かれているのです」

 内部文書のタイトルに書かれたGACPとは、簡単に言うと安全に生薬を確保するためのガイドラインのことを指す。2003年にWHOが作った薬用植物についてのGACPガイドラインを参考にして、2010年にツムラ独自のGACPガイドラインを制定。これに基づく生薬の栽培管理を行うことで、安心安全をアピールしてきた。

 生薬業務に携わるツムラの社員がさらに解説する。

「具体的には、栽培手順や使用許可農薬の徹底にはじまり、万一の時には医療機関から原料生薬生産地まで遡れる生薬トレーサビリティ体制によって原因を明らかにする。さらに生産団体の監査も行うという三本柱の構成です。このGACPが、安全な生薬の安定確保につながるという、他社に無いツムラの強みなのです」

■《想定外の農薬》

 だが、いかに実情が宣伝文句とかけ離れたものだったかが、内部文書には刻みこまれていた。

 例えば、「使用許可農薬が遵守されていなかった事例①」の項では、2015年1月、気管支炎などに効果があるとされる麦門冬湯の主原料、麦門冬から許可していない農薬の使用が発覚したことが挙げられている。その原因として、

《対象産地のSBP(編集部注・生薬生産標準書)には使用許可農薬としてのPBZ(同・植物成長調整剤)の記載がなく、農民も農薬だと認識していなかった》

 などと記載。また、薄荷(ハッカ)から農薬が検出された「事例②」のケースでは、業界団体の調査によって14種類の成分が見つかるものの、そのうち生産標準書にある使用可能農薬は2種類でしかなかった。つまり残り12種類は、《想定外の農薬》だったと書かれているのだ。

 中国と言えば、段ボールで肉まんを作ったり、下水溝に溜まった油から食用油をリサイクルして販売するなど、過去に散々、話題となったようなお国柄だ。中国産と聞いただけで予想もしないことが起きうるのは、それこそ“想定内”のことではないか。

 前出のツムラ幹部の話。

「現在、ツムラが製造する漢方薬の原料は、国内とラオスでもわずかに栽培が行われていますが、実に8割は中国で栽培されています。ツムラは現地での栽培加工に際して、手順が書かれた指示書を共有することで、産地ごとの契約会社による農民管理が細かく行き届くと考えていたのですが、実態は違っていた。末端の農民までは管理ができていなかったのです。誰が作ったのかを把握している農民は全体の約55%で約1万人。つまり、残り1万人の生産者は誰かも分からなければ、農民たちがどんな栽培を行っているかさえ、不明なのです」

 この点については、内部文書でも、《農民が特定できていない》と書かれていて、品目別に調べた《2015年度 農民特定状況》では、ツムラが薬の製造に使う生薬全119種類のうち、100%農民の顔が分かるのは、「柴胡、当帰、麻黄」などの16品目のみ。それ以外は、多かれ少なかれ、どこの誰が作った作物か分からないものが混じっているという。こと「桔梗、桂皮、胡麻」など42品目にいたっては40%以下。声高に掲げていた「ツムラ生薬GACP」の柱のひとつ、トレーサビリティ体制が、いかにお粗末な大風呂敷かが分かるというものだ。

■“家族に飲ませることができる生薬を”

 お粗末と言えば、さらに、内部文書を先に進んで、今後の《具体的対策》についても然りである。

《オファー発行は安全担保の体制を前提とする》

《使用許可農薬一覧表を農民まで配布し、受領を確認》

《農民教育の実施⇒教育資材を提供し、産地公司に実施させる》

 といったように、今更感が満載。もっとも、これらを踏まえて立てた《2016年以降の農薬管理体制の目標》は、

《2016年度 農民の73・3%を特定》

《2018年度 農民を100%特定》

 そして、ようやく2020年度で、農薬使用状況を完全に管理できるようにするというが、衝撃的なのは、これらの目標を達成した後の、さも最終目標であるかのように書かれた、次の一文だ。そこには、なんと、

《自分の家族に飲ませることができる生薬を供給する》

 と、一瞬、驚きのあまり目を疑いたくなるような文章が記されていたのである。

“誰が、いつ、どこで、どう読もうとも”、これを読まされた誰もが皆、現在のツムラの製品は社員の家族には飲ませることができない漢方薬だ、と読み取るほかあるまい。同時に、誰もが、農薬入りの漢方薬が市場に出回っているのでは、という不安に駆られるはずだ。

特集「役員会に驚愕の内部資料 漢方大手『ツムラ』が売る『社員に飲ませられない生薬』」より

週刊新潮 2016年12月22日号掲載

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