死刑囚が告白した殺人事件、ついに“永田町の黒幕”の遺体発見 右手に龍の指輪

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 20年近くもの呪縛を解かれ、ついに地中から掘り起された骸。その手に嵌る指輪は、遺骨の主が「永田町の黒幕」であることを雄弁に語っていた。もっともこれで全てが終わりではないという。今後、「死刑囚」はさらなる告白で新たな被害者の存在を明るみに出すのか。

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矢野死刑囚

 四方を峰に囲まれた山深い峠。鬱蒼と生い茂った木々の中を右に左につづら折りとなる林道を下りていくと、辺りの濃緑は暗く翳りの度合いを増していく。頂上から数百メートルほど下った大きな右カーブ。そのガードレール脇の急斜面が“悲劇の地”だった。

 僥倖の瞬間、捜査員は目を見張ったという。虚空を掴むように地中から突き出された右手の骨。その薬指にはプラチナの指輪が嵌められたままになっていた。

 11月30日、秩父に隣接する埼玉県ときがわ町の山林で、警視庁は初夏以来、探し続けてきた遺体を発見した。20年近くも地中の闇に埋もれ、白骨化していた屍はついに発掘され、木々の間から漏れる仄かな光に照らされたのだ。それは、闇から闇に葬られていた凶悪犯罪がようやく白日の下に晒された瞬間でもあった。

〈この処、毎晩のようにリュー一世(斉藤衛)の夢で苦しんでおります。(中略)私個人の考えでリューの首を絞め殺しました。(中略)一日も早くリュー一世を穴から出してやって頂きたくお願いを申し上げます〉

 前橋スナック銃乱射事件(2003年)の首謀者として、一昨年3月、最高裁で死刑が確定した、指定暴力団、住吉会幸平一家矢野睦会(当時)の元会長、矢野治(67)。彼が警視庁と本誌(「週刊新潮」)に対し、2件の殺人を告白する手紙を送ってきたのは、一昨年末と昨年5月のことだ。

 1件目の被害者は不動産業者の津川静夫さん(1996年の失踪時60歳)。所有する伊勢原駅前の土地を巡ってトラブルに巻き込まれ、矢野の依頼を受けた組員に絞殺されたという。

 そして2件目の被害者が、今回、白骨体で発見された斎藤衛(98年の失踪時49歳)だ。彼は97年、政界を揺るがした事件のキーマンとして、社会の耳目を集めた人物だった。現役国会議員が多くの国民から多額の金を騙し取った「オレンジ共済事件」。これに絡み、当該議員の参院選比例名簿順位を上げるべく、5億円もの金を新進党に運び、政界工作を仕掛けたといわれる“永田町の黒幕”だ。彼は、2度にわたり、国会に証人喚問もされた。

 その本当の正体は、稼業名「龍一成」(矢野は「一世」としているが、正しくは「一成」)を名乗る、暴力団の企業舎弟だった。

 しかし当の警察はこの前代未聞の告白を、1年以上にわたり放置していた。

「新たな事件が立件されれば、死刑が先延ばしになる。情報を握り潰したかったに違いない」(矢野の知人)

 本誌は、矢野の指示を受けて2つの遺体を遺棄した元矢野睦会組員の結城実氏(仮名)に接触を重ねた。結果、ついに彼は重い口を開き、こう証言してくれた。

「津川さんの死体は、伊勢原の大山の雑木林に穴を掘り、埋めた。龍は、埼玉の秩父あたりの山中に遺棄した。龍は高価そうな指輪と腕時計をしていたが、そのままの状態で埋めたよ」

 これを受け、本誌は今年2月から断続的に、事件の全貌を報じてきた。その報道により、警視庁は慌てて本格的な捜査に乗り出し、今日に至ったというわけだ。

 もっとも津川さんの遺体が今年4月の捜索初日に発見されたのに対し、斎藤の捜索は難航した。警視庁担当の記者が解説する。

「警察は今回の場所を7月に2度、捜索したが、遺体を発見できなかった。11月21日、22日にも、51人体制で範囲を広げ、再捜索。しかしそれも失敗に終わっていたんです。次はいつどこを掘るのか、方針が決められないままになっていた。何も展望のない中、11月29日、現場の穴を埋め戻す復旧作業を任されていた地元の作業員から、掘り返した土を積んでいた場所の下を整地していたところ、遺骨の一部を発見したとの連絡が入ったんです。それで翌朝の捜索となった。本当に偶然の産物で、これがなければ、斎藤の遺体は永遠に発掘されなかったでしょう。警視庁は半ば諦めかけていましたから」

 その諦念を死者の怨念が許さなかったのか。地中から突き出された右手の骨は、捜査員らの腕を掴もうとしていたかのようでもある。

 目下、DNA鑑定と歯の治療痕の照合が進められているが、この白骨化遺体が斎藤のものであることは間違いあるまい。なぜなら右手の指輪が遺体の主を暗示しているからだ。そのリングの両脇2カ所には「龍」の文字が刻まれていた。

■「事件は終わらない」

「この度は本当にありがとうございます。週刊新潮さんのおかげで、ようやく衛の骨が上がりました」

 斎藤の唯一の遺族である実姉はしみじみとした口調でそう語った。そのうえで、

「だけど、私としてはまだ終わりじゃない。なぜ衛は殺されたのか。本当に矢野さんが殺害を実行したのか。真実が知りたいのです」

 当の矢野は、斎藤殺しの動機についてこう明かした。

「私は龍に1億円以上の金を貸していました。この返済が滞り、8600万円が焦げ付いてしまった。ある時、龍はこう提案してきた。“旧川崎財閥の資産管理会社『川崎定徳』の佐藤茂社長が亡くなった後、会社の資産を受け継いだ男がいる。不動産会社を営む桑野大樹社長(仮名)です。奴を攫(さら)って、不動産などの権利書類を奪ってから殺す。8600万円を2億円にして返します”と。しかし桑野社長は、住吉会の大幹部とも親交がある人物だから、“絶対、手を出すな”と厳命した。だが、翻意しないので、組事務所で大型犬の檻の中に奴を3日間、監禁しました。そして首にネクタイを巻きつけ、絞め殺したのです」

 今後の捜査はどうなるか。

「そもそも警視庁はこの捜査に消極的です。そのうえ津川さんの事件は、実行犯がすでに死亡しているので、殺人罪での立件が難しい」

 とは、先の記者だ。

政界のフィクサー、斎藤衛

「一方、斎藤の事件は、矢野自らが手を下したと供述しているので、立件せざるを得ないでしょう」

 しかも矢野が関わった未解決事件はこの2件だけに留まりそうにない。捜査関係者が声を潜める。

「矢野の指示で、前橋スナック銃乱射事件の実行犯をフィリピンに逃がす手助けをした矢野睦会の元組員、大山剛(仮名)がその後、姿を消しています。口封じで殺害された可能性がある」

 現に本誌には幸平一家の元幹部を名乗る人物から次のような手紙が届いている。

〈矢野ほど見苦しい外道はいない。私は、矢野の命令で大山を殺して埋めました。理由は、大山の親の生命保険金8000万円を奪うことと前橋事件の口封じです。逃げている身ゆえ疲れました。大山殺しでパクられること、覚悟の上でおります〉

 矢野はいずれこの件も明るみに出すつもりなのか。しかも彼の周辺には忽然と姿を消したり、不慮の死を遂げた者が他にもいる。

「矢野にはこのままでは死にきれない理由がある。時間が必要なんです。前橋事件の真の首謀者でありながら、のうのうと娑婆で暮らす許せない人間がいるということではないでしょうか。事件はこれで終わりにはならない」(先の知人)

 警視庁は、この住吉会の元大幹部の呪縛から解き放たれそうにない。

特集「永田町の黒幕を埋めた『死刑囚』の告白 ついに遺体発見! 右手に嵌っていた龍の指輪」より

週刊新潮 2016年12月15日号掲載

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