「キヤノン」宇宙開発事業に参入 カメラ精密技術を生かす
人工衛星を搭載したロケットを飛ばす。数年前まで国家プロジェクトだった宇宙開発事業へ、民間企業が“商機”を求めて相次いで参入を表明している。なかでも、話題になっているのがカメラやコピー機で知られるキヤノンの子会社「キヤノン電子」だ。
宇宙開発事業で最大のネックは、開発から発射に至るまでの巨額な費用。そこで先進各国では小型、軽量化によるコスト抑制の動きが主流になっている。来春、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所で発射するロケット「SS-520」改良型もその1つ。JAXA広報部によれば、
「SS-520改良型は直径52センチ、高さ10メートル弱と電柱並みのミニロケットで、衛星を打ち上げる機体では世界最小です。打ち上げ費用は、4億円プラスアルファ。H-IIAロケットのそれが約100億円、次世代のH3ロケットが約50億円かかりますから、かなりローコストで済む計算になります」
SS-520の1号機(C)JAXA
JAXAのミニロケットには“キヤノン電子”製の制御装置などが搭載されるが、契約上の問題で詳細は公にできないという。ならば、キヤノン電子の親会社「キヤノン」の広報課に話を聞くと、
「やはり、具体的な話はできませんが、JAXAのロケットにはデジタルカメラやプリンターの技術を応用し、小型化、軽量化した製品が搭載されます。あくまでも、JAXAへの部品・技術提供。現時点で、ロケットビジネスへ参入するわけではありません」
だが、一方でキヤノン電子は数年前から人工衛星の開発に着手し、来年3月にインドで打ち上げられるロケットへの初搭載が決定している。
■地上500キロから
こちらも超小型。キヤノン電子の人工衛星「CE-SAT-I」は縦横50センチ、高さ85センチ、重量65キロで、成人男性なら持ち運びできそうな大きさ。開発製造費は10億円以下で、ライバル他社が製造する小型衛星の10分の1ほどだ。
「人工衛星には、自社製デジタルカメラ『EOS 5D』の技術を生かした撮影装置を搭載しています。地上500キロから撮影した自動車や建物の数や大きさをはっきり判別できるので、災害時にも役に立つはず。地上では立証済なので、宇宙で実証実験を行うのが打ち上げの目的です」(キヤノン広報課)
マーケット調査会社「富士経済」の中島裕介調査研究員の解説では、
「昨年、宇宙関連ビジネスの世界市場規模は約29兆4252億円でした。今後、通信衛星の打ち上げ増加は確実。年々、顧客ニーズが多様化し、すでに回線はパンク状態ですからね。2030年の市場規模は、昨年の約1・78倍にあたる約52兆4072億円にまで拡大する見通しです」
今後、キヤノン電子は、宇宙開発事業に手の出せない途上国などへの売り込みを視野に入れている。果たして、思惑通りにコトは運ぶのか。
「実は、超小型人工衛星を手掛ける大企業はそれほど多くありません。キヤノン電子は、いち早くマーケットに参入して優位性を確保したいのでしょう。技術に定評のある企業ですから、画像撮影や送信に問題はないはず。課題は価格。発展途上国や民間企業に買ってもらうには、さらなるコストダウンが必要になると思います」(同)
生活に役立つ人工衛星。だが、宇宙から顔をハッキリ撮られるのはチョット嫌かも。