「プーチンカレンダー」 バカ売れのヒミツ
大人気のプーチンカレンダー
年の瀬の頃、文房具や雑貨の売り場に積み上がる2017年の手帳やらカレンダー。景気のよろしい頃は、各所で貰ったりしたものだが、昨今はそんな“高額景品”を配る会社も少なく、みなさん、ご自身で買い求める。で、せっかく買うんだったら――と、お気に入りの図柄や写真を選ぶ。動物、風景、名画、アイドル……が定番なのだろうが、よりにもよって、“とある男”の写真を選ぶ人たちがいる。ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンだ。
“本場”ロシアで人気の「プーチンカレンダー」に目をつけて、輸入販売する雑貨販売の大手「ロフト」は、思いのほかの売り上げに驚きを隠せない。
「昨年、ネットで話題になったこともあり、今年から輸入販売を始めたのですが、渋谷ロフトでは売上ランキングで3位と4位(プーチンカレンダーは2種類ある)。1位、2位が毎年定番の実用カレンダーですから、予想外のことです」(ロフト広報)
輸入販売のモノゆえ、カレンダーとしては、祝祭日はもちろん、曜日の表記も日本のものとは違う。それなのにこのランキングを叩き出すとは、やっぱり驚きだ。果たしてその魅力とは何なのだろう。先の広報氏によれば「男女年齢層関係なく売れていますが、“面白い”“カッコいい”といって買われる若い女性が多いのも一つの特徴ですね」というから、少しばかりその中身を見てみよう。
表紙はいきなりサングラスを掛けたウラジーミルで、なつかしの「西部警察」大門団長を彷彿とさせる。そして月をめくってゆくと、大型犬と戯れたり、ハンググライダーに乗ったり、怪魚を釣り上げたり……と、これでもかというくらい厚い胸板を主張して、とにかく一貫して“タフ&ワイルド”。こんな64歳なら――と、若い女性がときめくのも無理もないのだが、この「コスプレ」といってもいいくらいのパフォーマンスの数々に「政治家プーチン」の「深謀遠慮」が隠されているとしたら、どうだろう?
プーチンの隠された過去に光を当て、その“世界観”と“思考”を徹底的に分析したことで話題の『プーチンの世界――「皇帝」になった工作員』(新潮社刊)には、こんな一節が書かれている。
《彼は実にバリエーション豊かな格好で報道機関や利益団体の前、そして危機の現場に現われる。たとえば2010年のモスクワ周辺の大規模な泥炭火災の際には、消火飛行機のパイロットに変身した。どうやら、こうした芝居がかったアピールは、クレムリンの無限の衣装ストックと特殊小道具部門の助けを借りて行なわれているようだ。(中略)ウラジーミル・プーチンとPRチームは、こうしたパフォーマンスへの人々の反応を注意深くモニターしている。彼のパフォーマンスが万人受けしないことや、見え見えの過度な演出のせいで国内外の嗤(わら)いの種になっていることも重々承知している。(中略)すべては世論調査の結果に基づいた行動であり、クレムリンはロシア国民のなかの特定の集団に訴えかけ、親密で良好な関係を築こうとしているのだ。(中略)プーチンは数々のパフォーマンスを通じて、どんな緊急事態にも対処できるロシア最高の行動家というイメージを打ち出そうとしているのだ。》
さらに具体例を挙げれば……、
《ロシアの大統領が革ジャケットを着て〈ヘルズ・エンジェルス〉のごとき暴走集団と一緒にバイクを走らせたり、白い衣装を着て自ら超軽量飛行機を操縦し、絶滅の危機に瀕する渡り鳥を先導したりすることで、ロシアのバイク乗りと自然保護活動家たちがスポットライトを浴びる。すると、「大統領はどちらも平等に注目してくれる」「自分たちの活動が大統領を動かした」「われわれにもロシア社会のなかで果たす役割がある」と彼らは自信を持てるようになる。つまりプーチンのパフォーマンスは、一種の一体感や連帯感を生み出すのである。》
つまりはプーチンの、かくもバカバカしいパフォーマンスの数々は、すべては計算ずくのこと。すべては国民を自らの手のひらの上で躍らせるためにやっているというのである。そして、これも一因として獲得したとんでもない国内支持率(8割超!)のもと、国際社会の舞台で暴れまわるプーチンが目指す、「その先の世界」とは……。