カルシウムの過剰摂取、動脈硬化に?男女に差 アンチエイジングの第一人者が語る最先端
■「アンチエイジング」第一人者が語る健康不老の最先端(1)
齢を重ねるに病や衰えと無縁たらんとするアンチエイジングの分野では、日々、新たな知見が続々と積み重ねられている。その最先端の瞠目すべき情報を、一貫して斯界で研究と臨床、双方の医療に携わってきた抗加齢医学の第一人者、久保明医師が教えてくれる。
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サプリならではの可能性も(写真はイメージ)
アンチエイジングという言葉が世間で認知されるようになったのは2000年頃からです。以来、刻一刻と報告されている新たな研究成果は、いまや全体としてあまりに量が膨大となっており、じつは専門医ですらまとめて触れる機会は限られています。
そこには既知の常識と異なり、定説を覆す内容も見られます。人々の期待や願望に対して否定的な研究結果が出ていたりもします。しかし、厳密なサイエンスに基づいたものであるため、最新の情報に触れることは日々の暮らし、健康を考えるうえで大いに参考になるはずです。
では早速、近年のトピックとなっていながら、日本ではあまり知られていないあれこれについてご紹介していきましょう。
【主な栄養素の最新事情】
以下の数項目は、サプリメントに関する研究から導かれたものであることをお断りしておきます。サプリは効かない、危険だ、自分とは無縁だと考える人もいらっしゃるかもしれません。が、この分野での知見は、普段の食事では補えない、サプリならではの可能性を示してくれるとともに、必要な、摂るべき栄養素は何かを理解する一助となります。
■魚油由来のオメガ3脂肪酸で筋力アップ
米国内で今年発表されたレポートは、3万8000人を対象に調査した結果、男女とも50%以上が何らかのサプリを摂取し、なかでもイワシやサケ、カツオやシラスなど魚類に多く含まれることで知られるビタミンDとオメガ3脂肪酸の摂取者が、増加傾向にある事実を明らかにしました。
ビタミンDは骨の形成を助け、オメガ3は動脈硬化を防ぐとされ、人々の関心も高いのですが、これらには筋肉をつくる効果もあるとわかり、注目を集めています。
とくにオメガ3に関しては昨年5月、米国栄養学会が発行する専門誌(※1=掲載媒体名は文末参照、以下同)において新しい報告がなされました。
60〜85歳の健康な男女でサプリにより6カ月間、通常量のオメガ3を摂ったグループが、そうでないグループに比べて太腿の筋肉量で3・6%、握力で2・3キロ、最大筋力で4%増加したとのワシントン大学による研究です。
これらの数字は、年齢にしておよそ3〜4歳、若返ったことを示唆しています。
つまりオメガ3には、加齢に伴う筋肉量の減少や、機能の低下を遅らせる効果がある、というわけです。
健康はまず身体と骨格から。魚を食べると、血管の老化や脳機能の低下を抑止するばかりか、虚弱化の防止、体そのものの維持にもつながります。
■ビタミンEで認知症予防
一昨年、国際的な米医学誌(※2)で、認知症患者には一般の処方薬より、ビタミンEが症状改善に効いたという驚きの報告がなされました。
軽度から中度の認知症患者600人弱を4つの群にわけ、継続的調査を行ったところ、処方薬を投与した群よりもビタミンEのサプリのみを投与した群のほうに、症状の改善が見られたのです。
具体的には、ビタミンEのみの投与群は食事、睡眠、排泄など日常必須の生活機能の低下が、年間19%も抑制された。これは症状の進行を6・2カ月分遅らせたことに相当します。
ビタミンEはカボチャやひまわり油、アーモンドに多く含まれ、強力な抗酸化作用を有します。活性酸素による血中コレステロールの酸化、動脈硬化の進行を防ぐ役割があることも、よく知られています。
それが、まさに認知症に効いているようです。
というのは近年、認知症の原因疾患として「アルツハイマー病」と並んで「脳血管障害性」のものが増加しており、そのいずれに対してもビタミンEの抗酸化作用が抑制作用を発揮すると推測しうるからです。
ただし注意が必要なのは、例えばカボチャの量で考えると、1日に50キロも食べている計算になること。アーモンドなら500粒です。およそ錠剤でしか摂取できない分量でしょうが、現在の処方薬では症状の改善率が必ずしもよくない事情を考慮すれば、ビタミンEの大量投与には希望が持てると言えます。また、一定量のビタミンEは認知症の予防に効力を持ちうると予測できます。
■カルシウムの過剰摂取は動脈硬化を早める!?
男性のカルシウム過剰摂取は動脈硬化を早める!?(写真はイメージ)
もちろん、最新研究の報告は全部が喜ばしいわけではありません。先にも触れた米国栄養学会の専門誌(※1)は今年、男性がカルシウムを過剰に摂ると、動脈硬化を早めると伝えました。
それは18万人の男女を対象にした18年間におよぶ研究で、1日に1000ミリグラムを超えるカルシウムを摂取していた男性は、心血管障害による死亡率が高かったというのです。
1000ミリグラムは牛乳にしてコップ5杯分ですから、決して常識外の量とは言えません。誰しも想定しうる摂取量です。
血中でカルシウムとリンが結合して石灰化すると、動脈硬化につながるとの説は以前からありました。そこに今回、性差が介在したのです。
なぜなのか。血管保護作用がある女性ホルモンや、動脈硬化を抑える蛋白のアディポネクチンを、女性のほうが多く持っていることと関係があると推測されます。
よって、女性の場合はカルシウムを多めに摂取しても悪影響が少なく、むしろ骨粗鬆症の予防につながっている、といった仮説が立てられるのです。
実際、女性はカルシウムを摂る量が多くとも、男性とは逆に摂取者全体として死亡率が下がっています。こちらは喜ばしい話です。日本人の成人1日の平均摂取量は500ミリグラム程度で、 厚労省が推奨する目安は600〜700ミリグラム。カルシウム不足を自覚する女性はこの基準を念頭に、より積極的な摂取を意識されるのがいいでしょう。
■葉酸は腎臓病に効く
前出の米医学誌(※2)はつい先ごろ、ビタミンB群のひとつである葉酸に関しても、注目に値する報告をとりあげています。
中国の研究施設のレポートによれば「降圧剤が必要な程度に血圧が高い、60歳以上の腎臓病患者」1万5000人に葉酸を毎日0・8ミリグラム投与し、4年超の経過観察を行ったところ、病状の進行が非投与群に比べて抑制されることがわかったのです。
細かな数字はここまでにするとして、その抑制率は約10%。さして高くもないと映るかもしれませんが、現代の医薬で腎臓病の進行を遅らせるのは困難なテーマだとされている中、画期的な報告ではありました。
血中の「悪玉アミノ酸」とされるホモシステインを、葉酸は腎臓でメチオニンという別の物質に代謝させる働きを促進する。それによる効果だと考えられます。ただし、1日0・8ミリグラムの葉酸を摂るには、ホウレンソウを4束も食べねばならず、これはかなりしんどいかもしれません。
けれど一般に健康にいいと位置づけられてきたホウレンソウが、腎機能の維持にも資する可能性があることは、憶えておいて損はないと思います。
(※1)「The American Journal of Clinical Nutrition」
(※2)「JAMA:The Journal of the American Medical Association」
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「アンチエイジング」第一人者が語る健康不老の最先端(2)へつづく
特別読物「『アンチエイジング』第一人者が語る健康不老の最先端――久保明(東海大学医学部客員教授)」より