吉祥寺「保育園新設反対」騒動の“ウラ” 左翼のポピュリズムに利用
〈保育園落ちた、日本死ね〉といったヘイトスピーチまがいのブログの書き込みを持て囃すまでもない。少子化対策が日本にとって喫緊の政治課題であることは論を俟たない。しかるに保育園新設が各地で周辺住民の反対運動に遭い、頓挫するケースが頻発。昨年まで関東の「住みたい街ランキング」5年連続1位の東京・吉祥寺でも事業者が撤退に追い込まれた。もっともこの騒動には新聞報道だけでは分らない裏があった。
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保育園予定地だった場所
「子どもの声がうるさい」
これが保育園建設反対運動でよく挙げられる理由の一つだ。なかには住民の狭量さに疑念を抱かざるを得ないケースもあるという。
〈保育園開設を断念 反対運動で業者撤退 武蔵野市〉(9月30日付朝日新聞朝刊東京地方版)
こんな新聞の見出しを目にすれば、読者は吉祥寺の一件も住民の狭量さゆえではないかと眉を顰めるに違いない。しかし、である。
「私たちは保育園の新設そのものに反対したわけではありません。これでは、まるで地域住民のエゴで保育園の話が潰れてしまったと思われるじゃありませんか」
と当惑するのは、近隣住民の男性だ。
埼玉県の自動販売機管理会社が武蔵野市に認可保育園の新設を申請したのは、今年4月のことだった。吉祥寺駅から徒歩10分ほどの吉祥寺東町に500平方メートルほどの土地を借り、0〜5歳の81人を受け容れる「ましゅまろ保育園」の建設を計画。来年4月の開園を予定していた。
5月〜6月にかけ、市と都はこの計画を承認した。しかしその後、地域住民の反対に遭う。事業者は工事に着手できないまま、結局、事業を断念したのである。
現在、武蔵野市の待機児童数は122人。市は2018年春までにこれをゼロとする目標を掲げていた。「ましゅまろ保育園」はそのための重要な施設だった。
「頓挫したのは、やむを得ません。住民には、事業者との話し合いを打診していましたが、応じてもらえなかった」(市の担当者)
■左翼のポピュリズム
だが先の住民は反論する。
「我々住民は7月に『東町保育園建設を考える会』を結成したので、会として話し合うつもりでいました。しかし会には一度も協議の要請はなかった。そもそも私たちが反対した理由の一つは、予定地に面した道路が幅5メートルほどと狭く、朝夕の交通量が多くて危険だからです。昨年のデータでは朝7時〜8時は9・6秒に1台車が通る。だから代替地として北に30歩ほどしか離れていない市有地を勧めました。そこなら安全性が高い。それなのに耳を傾けてもらえませんでした。しかも事前に事業者は地元と合意を得る必要があるのに、説明会すら開かなかったのです」
これに対し事業者側は、
「4月に2度に亘り、近隣住民を一軒一軒回って、丁寧に説明し、理解を得ました。単なる挨拶回りではありません。これをもって合意を得たと考えています」
この主張にも男性住民は、
「彼らが回ったのは、予定地に隣接したお宅など8軒だけです。普通は地域住民を集めた説明会を開くものでしょう。それなのに市の資料では『近隣説明、建設合意済』と記されていたのです。事業者に不信感を抱き、調べると、この会社は保育園経営の実績がなかった。7月、承認を取った後に開催された説明会で保育の理念を尋ねると、まともに答えられもしませんでした」
この問題に詳しい武蔵野市議の深田貴美子氏が語る。
「問題は市のガバナンスの欠如と、この騒動が左翼のポピュリズムに利用されたことです。市は事業者の選定・精査が甘く、業者に丸投げして近隣住民との充分な調整も図れなかった。そのうえ一部の市議などはこの事業者に固執し、子どもの安全を想う住民の善意を“住民エゴ”や“排外主義”などと貶(おとし)めたのです」
市の適切な指導があれば、こんな混沌の事態には陥らなかったに違いない。
ワイド特集「希望とため息のストライプ」より