「黒田バズーカ」による負の遺産…ボロボロの日銀財政、引き上げられない政策金利

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 11月1日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合で、黒田東彦総裁(72)が明らかにしたのは、インフレ目標達成時期の先送りだった。2017年度中とされていた時期は「18年度ごろまで(つまり、19年3月まで)」と発表。総裁任期は18年4月までだから、在任中の達成は不可能と“白旗”を揚げた形である。

 ようやく「黒田バズーカ」の化けの皮が剥がれたところで、日本の財政は一体どこに向かうのか。

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日銀本店

「アベノミクス」を体現するべく、黒田総裁が大規模な金融緩和策を発表したのは13年4月のことだった。毎年50兆円のペースで国債を買い上げ、また、それぞれ1兆円、300億円ずつETF(上場投信)やJリート(不動産投信)を買い集める“ジャブジャブ金融”である。

 黒田総裁が異次元緩和を繰り返してきた3年半、日銀が抱えてしまった“負の遺産”は余りにも大きい。

 シグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミストが、日銀のバランスシートを見ながら解説する。

「まず、10月31日の時点で、日銀が抱える長期国債の銘柄別残高は348兆4117億円、これまで買いまくった長期国債の総額ですが“黒田バズーカ”が発射される前の3倍強に膨れあがっています。ところが、日銀は相場より高く買い付けているため、実際の取引価格はこれより安い。残高との差額は9兆3211億円もあり、これがそのまま含み損になってしまうのです」

 もちろん、日銀には7兆円以上の厚い自己資本があるはずだ。

「しかし、これを含み損に補填したとしてもまだ追いつかず、現状では差し引き約1兆7000億円の債務超過となっているのです」(同)

 絶対に潰れないはずの日本銀行が、こんなボロボロの財務状態なのである。

 それだけではない。さらに怖いのは、年間6兆円を買い付けているETFやJリートだ。たとえば大型ETFの「日経225連動型上場投信」は、構成比率に合わせて225種の株に投資する仕組みになっている。これまで日銀は指数連動型を中心に約10兆2000億円のETFを買い付けており、間接的ではあるが、ファーストリテイリングやTDKの筆頭株主だ。

「すでに株式市場における日銀の存在は巨大です。もし、日銀が金融緩和策の出口でETFを売却することが察知されたら、日本株はそれだけで暴落を起こします。それでなくとも、仮にリーマンショックのような事が起きて株価が半減すれば、日銀は20兆円規模の評価損を被ってしまうのです」(同)

■政策金利を上げられない

 もっとも日銀だから、どんなに赤字でもお札を刷ってしまえば大丈夫、と思われているかもしれない。

 だが、何もしなくとも水ぶくれになったバランスシートがいかに危険なことか、ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミストが指摘するのだ。

「中央銀行である日銀の一番の目的は、何より物価の安定です。インフレが起こりそうになれば、政策金利(銀行間の取引金利)を引き上げ、物価を抑制する。ところが、現状は銀行から国債を買い上げたことで日銀の当座預金口座に300兆円以上がブタ積み(※金融機関が企業に貸さず、金を置いたままにすること)になっている。これは政策金利を1%引き上げただけで、3兆円の利息を払わないといけない計算です。そうなったら、自己資本の7兆円など2年~3年でほぼ消えてしまう。異次元緩和をやってしまったことで、日銀は自分の手を縛ってしまったのです」

 黒田氏は、若い頃、英オックスフォード大学に留学し、ジョン・ヒックス博士の薫陶を直に受けている。ケインズの後を継ぐノーベル経済学賞の受賞者だ。

 元大蔵官僚から、アジア開銀総裁、そして、エコノミストの頂点に立った黒田総裁は、自分が温めてきた「理論」を試したかったのかも知れない。日本の財政を漂流させてでも。

特集「あの強弁をやめたら全国民が不安になった!『黒田総裁』白旗で『日本銀行』と『日本財政』の漂流先」よりより

週刊新潮 2016年11月17日号掲載

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