「オウム麻原」主治医の死刑囚、化学専門誌に初手記 サリン事件を回想

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麻原彰晃の主治医だった中川智正の手記が掲載された月刊「現代化学」(11月号)

「ブラック・ジャック」に憧れて医師を志した男は、死を待つ独房で何を思うのか。オウム真理教13名の確定死刑囚の「Xデー」が迫っている。その中の1人、麻原彰晃の主治医だった中川智正(54)が、化学専門月刊誌に初の手記を寄せた。

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〈当事者が初めて明かすサリン事件の一つの真相〉

 そう題された6ページの手記が載ったのは、月刊「現代化学」誌の11月号である。

 中川はオウム犯罪の中で極めて重要な役割を果たした人物だ。坂本弁護士一家殺人、松本サリン、地下鉄サリンの「三大事件」のいずれにも関わり、罪に問われた事件数は11件と麻原に次ぐ。その殺害に関わった「被害者」は25人に及ぶ。

 一方の「現代化学」は、創刊45年の老舗雑誌。手記の中身は専門的で、サリンなどの生成の化学式もふんだんに用いられている。

 うち「真相」に当たるとされる部分は主に2つだ。

〈地下鉄サリン事件のサリン原料DFを保管していた者は誰か?〉

 との質問に、

〈村井氏の指示で井上氏が持っていたのです〉

 と答えている部分。

 そして大要、

〈第7サティアンでサリンができていたのか?〉

 という問いに、

〈できていません。第7サティアンと松本・地下鉄サリン事件は無関係です〉

 と述べている箇所である。

■科学と宗教は別

「この手記は、私が中川さんに勧め、出版社に掲載の同意をもらったものです」

 と言うのは、米国コロラド州立大学のアンソニー・トゥー名誉教授。台湾出身で日本語も堪能な氏は、毒性学の世界的権威ということもあり、5年前から中川死刑囚と特別に交流を許され、これまでに10回、面会を重ねてきた。

「その中で、DF、つまり、地下鉄で撒かれたサリンの直接の元となったジフロロ化合物について“井上が持っていた。しかし、取り調べの中では教団の罪を隠す意味もあり、自分が保管していたと供述してしまった”と言う。また、散布されたサリンも、製造工場として有名になった第7サティアンではなく、土谷正実、遠藤誠一両死刑囚の『土谷棟』『遠藤棟』と呼ばれるプラントで出来たものだと言っている。いずれも裁判の結果とは異なる話ですので、真相を明らかにした方が良いと勧めたのです。本人は“自分も井上も死刑になるのだから、今さら争いたくない”と渋っていましたが、最後は“正しい記録を残しておきたい”と、ひと月くらいで原稿が届きました」(同)

 手記には他にも、

〈サリンを使ったテロが再び日本で起こるか?〉

 との質問に、

〈現在の日本では起こりにくい〉

 と答えたり、

〈どうして高学歴の科学者が事件を起こしたのか?〉

 という問いに、

〈科学と宗教はまったくの別物。(麻原は)ヨガや瞑想の指導者としての能力はきわめて高かったのです。教団が殺人を犯すなどと思って入信した者は皆無〉

 と、ありのままの感想を述べたりしている。

 しかし、ひとつ気になるのは、彼が「麻原氏」と、大量殺人の首謀者に常に「氏」を付けて表記している点だ。未だ「マインドコントロール」の中にあるのかとの懸念を感じるけれど、先のトゥー氏は言う。

「気持ちは安定しているようで10月の面会でも朗らかな様子でした。ただ、麻原はかつての師であり、説教も上手で奥深く、怖い人だった、と。畏敬の念を抱いていたそうです」

 中川にとって事件は未だ終わりをみせていない。

特大ワイド「ふりむけば百鬼夜行」より

週刊新潮 2016年11月10日神帰月増大号掲載

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