西之島初上陸の調査チーム、“泳いで上陸”“包み紙1枚残さず”の徹底ルール

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 人跡未踏の地に足を踏み入れるのは、どんな気分なのだろうか。小笠原諸島・父島の沖に出現した西之島新島に初めて調査チームが上陸した。驚かされたのは、島にたどり着くのに船から泳いで行ったことだ。本土から一切の生物を持ち込まないためだが、上陸メンバーが徹底した「ルール」とは。

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西之島新島に初めて調査チームが上陸(撮影:海上保安庁)

 東京大学地震研究所などの調査チームを乗せた研究船「新青丸」の前に、黒い富士山のような島影が姿を現したのは10月19日のことである。晩秋も近いというのに気温は30度を超え、空は晴れわたっていた。

 上陸メンバーの1人、前野深氏(東大地震研究所助教)が振り返る。

「われわれ調査団が上陸計画を立てたのは4月のことでした。今年に入ってから島の噴火は止まっており、警戒範囲の縮小が予想されていたからです」

 泳いで渡ることは早くから決まっていた。翌20日の午前9時、上陸メンバーの7人は、海パンの上にウエットスーツを着込み、陸から約700メートルの地点で小型船とゴムボートに乗り替える。さらに、30メートル手前まで近づくと、ゆっくり海に降りた。衣類・観測器は防水バッグに詰め込んである。

「泳いで上陸する理由は、まず、何より外来種の生物を持ち込まないためです。海水に浸かることでウエットスーツや髪についている付着物をなるべく洗い落とすのです。また、ビーチは荒波が立っており、ゴムボートだと接岸はできても離岸が難しいということもありました」(同)

 前野氏は防水バッグをビート板のように抱えて進んだ。海は思ったより冷たく、ビーチに近づくと海中は濁って何も見えなくなった。

■ポータブルトイレ

 前野氏が続ける。

「ビーチに立ったときは“とうとう上陸したか”というのが正直な感想でした。すぐ近くまで溶岩が迫っており、新しい島の生い立ちが始まっている実感が湧いてきましたね」

 島は「スコリア」という噴出物で覆われ、歩くとガラスの破片を踏むような音がした。上陸メンバーは、そこでシャツなどに着替えた。すべて新品である。

「衣類などの荷物に関しては、地震研究所の一室にクリーンルームを作って外来のものが一切入り込まないようにしてあります。新青丸の中にもクリーンルームがあって、島に着くまで荷物は開けられません」(同)

 メンバーが上陸したのは、旧西之島の一部が残っている場所である。3年もの間、灼熱の噴出物と火山ガスにさらされていたのにオヒシバというイネ科植物が青々と茂っていた。

「島は生臭かった」

 というのは、一緒に上陸した森林総合研究所主任研究員の川上和人氏だ。

「アオツラカツオドリの繁殖が確認できたのですが、海鳥は魚を食べて陸地で糞をする。その臭いがすごいのです」

 しかし、調査チームは鳥のようにはできない。上陸当日は約4時間、翌21日は3時間弱の滞在だが、

「もちろん、島で立ちションなんかできません。トイレについては全員ポータブルの簡易トイレを持参してもらい、出したモノは新青丸まで持って帰って捨てることにしていました。食事は1週間以上前にパックしたミネラルウォーター、カロリーメイト、ゼリーを持ち込みましたが、包み紙1枚残さず、ゴミは全部持ち帰りました」(前出の前野氏)

 目下、西之島は立ち入り規制が検討されている。絶海の火山島がどうやって緑の島に生まれ変わるのかを見守るために。

特大ワイド「ふりむけば百鬼夜行」より

週刊新潮 2016年11月10日神帰月増大号掲載

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