カルロス・ゴーン、“人間の盾”を駆使の企業統治術 日産傘下の三菱自動車
自動車業界で今や「ビッグ3」は日本のトヨタ、独フォルクスワーゲン、米GMだ。世界販売台数1000万台前後で鎬(しのぎ)を削るこの一角に食い込みたいのが、仏ルノー・日産連合を率いるカルロス・ゴーン(62)。彼が駆使する“人間の盾”による企業統治術とは――。
***
盾にする人される人(画像:日産映像ライブラリーより)
満面の笑みを浮かべたゴーン日産社長が会見に臨んだのは10月20日。傍らには、時折浮かぬ顔を覗かせる三菱自動車の益子修会長兼社長(67)の姿があった。
「この日ゴーン氏は、燃費データ偽装問題で経営危機に陥った三菱自動車に日産が2373億円を出資、同社を正式に傘下に収めたと意気揚々と発表しました。日産はこれで三菱自動車株を34%保有、三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行の三菱グループ“御三家”を尻目に単独筆頭株主となったのです。三菱自動車の会長にゴーン氏が就任したのはともかく、退任が当然視されていた益子氏が会長こそ退任するものの社長を続投するとは驚きました」(経済部記者)
2005年、倒産の危機にあった三菱自工の社長に就任、会社を立て直した益子氏は10年以上同社に君臨、“天皇”とも称された。が、今回は責任を取って辞任するものと見られていたのだ。
「会見場の益子さんはまるでしょんぼり立たされた小学生のよう。哀れで仕方ありませんでした。ゴーンさんの派手なパフォーマンスの隣なのでなおさらです」
とは経済評論家の福田俊之氏。
「益子さんはかつての三菱自動車の救世主ですよ。新体制移行時に辞任する意向だったはずが、ゴーンさんに強く慰留されて断り切れなかったのでしょう」
その一方で、三菱自動車関係者は、
「生え抜きで“プリンス”とも呼ばれた相川哲郎前社長は辞任、なのに益子さんは残った。社内には“益子憎し”の声が当然、上がりますよ。益子が残るなら私は辞める、と言った幹部も一人や二人ではありません」
と今回の人事の余波を語るのだ。
経済部デスクは言う。
「ゴーンが日産に乗り込んだ時は塙義一社長を残して“改革の盾”にしましたし、2013年に業績が悪化した際は志賀俊之COOを切り捨てた。派手な目標をぶち上げて、いざという時は下を切る。三菱自動車でも同様の“統治”が始まったということでしょう」
■1000万台クラブ
「ゴーンの野望は世界一の自動車メーカーのトップに君臨すること。そのためにはなんとしてもビッグ3ら“1000万台クラブ”に食らいつきたい。いわば“傷物”の三菱自動車でも、世界販売台数を稼ぐには格好の材料になるんです」
とは経済紙記者の解説だ。
15年の世界販売実績で見るとルノーが280万台、日産が542万台、ロシアのアフトワズが30万台。ここに三菱自動車の100万台が加われば950万台と、1000万台が見えてくるのだ。記者は続ける。
「ゴーンはこの野望のためには日本人経営者を矢面に立たせ、業績が上がらなければ切るはず。“人間の盾”と言われても仕方がない」
“盾”に擬せられたご本人はなんと言うか。益子氏ご本人に直撃すると、
「そりゃ、ゴーンさんと私の立場は違います。社内には不満の声を上げる社員も居るかもしれません。が、とにかく今は厳しい状況。私は与えられた役割を一日一日果たすだけです」
と淡々としたご様子。
盾は盾でも“社員の盾”として、社長業をまっとうするおつもりのようなのだ。
特大ワイド「ふりむけば百鬼夜行」より