手塚治虫「エロティカ」発見秘話 25年ぶりに開けたロッカーから約200点
“漫画の神様”手塚治虫さんが60歳で亡くなったのは1989年。今年は『マアチャンの日記帳』でデビューしてから70周年にあたる。
この節目に初公開のイラスト29点が文芸誌『新潮』12月号に掲載されている。
ファンも息をのむだろう。目を閉じて身をくねらせた女ネズミ。女性が赤ちゃんやネズミ、なんと火鉢にまで変身する。女性の大切な部分に顔を描いたもの、などなまめかしい。柔らかな曲線で描かれ、なかなかに官能的で品もある。
これらの作品は、2年前に長女の手塚るみ子さんが発見したもの。開かない状態だったロッカーの合鍵を苦心して作り、父親の没後25年ぶりに開けたところ、ひとつの茶封筒から紙切れがごっそり出てきたという。
手塚るみ子さんは、その時の様子を『新潮』にこう記している。
<私をはじめその場にいた手塚プロのスタッフは「なんだこりゃ!?」と一瞬たじろぎ、驚き、そして焦りました。何かとんでもないものを発掘してしまったんじゃないかと>
見つかった素描は全部で約200点。薄い紙に描かれ無造作に折りたたまれたものが多く、作品名もない。誰かに見せることを意図していない習作と思われる。
<絵がとても活き活きとしています。おそらく父はこれを描きながらすごく楽しんでいたんじゃないかと。(中略)手塚の絵には性を超越したエロティシズムがあります。それなのに父は女性が描けないと悩んでいた? 本当に? その疑問はこの発掘作業によって少し納得できました>
変身を遂げる画は『ふしぎなメルモ』を彷彿させる。手塚プロダクションには今回公表した素描を出版する予定はない。“仕事の虫”がひっそり遺した秘画なのだ。