ハーバード大にもいた“トランプ支持” 期待する「副大統領候補」のラディカル・ライト思想
■「ハーバード大学」にも吹き荒れた「隠れトランプ旋風」(2)
昨夏より1年間、ハーバード大学ロースクール(法科大学院)に留学していた山口真由氏が、現地で吹き荒れた“隠れトランプ旋風”を明かす。共和党の候補者ドナルド・トランプ(70)の主な支持者は白人の低所得者とされてきたが、民主党の牙城であるハーバード大のインテリ層にも、その支持者はいるという。
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現地で吹き荒れた“隠れトランプ旋風”
続いて、熱烈なキリスト教徒の男子学生がトランプを支持する理由を語る。
「我々の主張をすべて支持してくれる“大統領”が誕生するチャンスなんだ」
しかし、彼が期待を寄せるのはトランプではない。副大統領候補のマイク・ペンスの方である。
トランプの陰に隠れがちだが、この副大統領候補も相当に強烈な人物。トランプのように人格的な問題を抱えているわけではないが、思想的には右中の右だ。
宗教・同性婚・中絶・銃――。これらはアメリカのイデオロギー対立が最も色濃く表れるトピックである。
アメリカの保守層の中でも社会問題について最も右寄りなのは、狂信的なまでにキリスト教を信じる一派。その教えに反するという理由で同性婚は禁止、中絶も禁止、そして、銃を持つのは憲法で保障された権利だと主張している(つまり、○宗教、×同性婚、×中絶、○銃)。しかし、こんなごりごりのラディカル・ライトが大統領候補となるのは難しくなった。近年では最も宗教色を強く打ち出したジョージ・W・ブッシュも、「思いやりのある保守」を旗印にしてラディカル・ライトを失望させている。
そうしたなか、トランプ政権の副大統領候補はラディカル・ライトを地でいく。
■ラディカル・ライトの理想的な政治家
まず、彼のキリスト教への傾倒ぶりは半端ではなく、ダーウィンの進化論を否定するほど。インディアナ州知事時代には、LGBTへの差別を容認する法律や、アメリカで最も厳しく中絶を禁止する法律を成立させた。さらに、銃メーカーを訴えることを禁止する法律も成立させている。銃規制派から、銃の製造によって利益を得ている業界も、銃犯罪の責任があるという声が上がったためだ。
ペンス副大統領候補は、ラディカル・ライトが望むものをすべて提示する理想的な政治家なのである。
翻って、トランプはどうだろうか。移民や女性に対する差別的な言動から、彼をラディカルな“右”と誤解する人は多い。だが、予想に反して、トランプはイデオロギー的に最もリベラルな共和党候補だ。
そもそも、キリスト教に熱心ではない。LGBTにもフレンドリーで、かつては中絶を容認する発言や、銃規制に賛成する発言をしいていた。
ポリティカル・コレクトネスが重視される世の中では、ペンスのような人物に支持が集まっても、敵はその数倍に膨れ上がる。たとえ共和党でも、そんな人物を大統領候補として容認するのは不可能に近い。
先ほどの男子学生の話に戻ろう。聡明な彼はもちろん、この状況を理解している。その上でこう言うのだ。
「これこそ、最大のチャンスだよ。トランプが大統領になった場合、遅かれ早かれ彼は弾劾されて大統領を辞めざるを得なくなるだろう。そのときに大統領に昇格するのは、そう、副大統領のペンス。我々は歴史上、最も右寄りの大統領を手にすることになるんだ」
なるほど、さすがはハーバードの頭脳、である。
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「ハーバード大学」にも吹き荒れた「隠れトランプ旋風」(3)へつづく
「ハーバード大学」にも吹き荒れた「隠れトランプ旋風」(1)はこちら
特別読物「民主党の牙城『ハーバード大学』にも吹き荒れた『隠れトランプ』旋風――山口真由(弁護士)」より