ノーベル賞・大隅教授、特技は「四つ葉のクローバー探し」本人語る

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 碩学の研究は、実に多岐にわたる。細胞の自食作用「オートファジー」のしくみを解明し、ノーベル医学生理学賞を授与される大隅良典・東工大栄誉教授(71)。その功績もさることながら、常人では為し得ない「四つ葉のクローバー探し」なる特技もお持ちだというから、今回、特別に“誌上講義”してもらった。

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 受賞の一報が駆け巡ったのは3日夜。以降、続々と喜びの声や偉業が報じられる中、教授の意外な一面も紹介された。例えば5日の「朝日新聞」朝刊では、

〈大隅さん 四つ葉探しも得意〉〈10分ほど歩くと五つくらい見つけられる〉

 また同日の「スポーツ報知」にも、〈知人に「良いことがありますように」とプレゼント〉

妻の萬里子さんにも贈るという(イメージ)

 とあり、それぞれ女性職員と研究室の助教が、教授から贈られた葉とともに写真に納まっていたのだった。

 クローバー(シロツメクサ)の四つ葉は、巷では「幸運のシンボル」として珍重され、一説には通常の三つ葉に比して1万分の1の割合だとも言われている。が、東大大学院理学系研究科の塚谷裕一教授(発生生物学)によれば、

「遺伝的要素の有無で出現頻度はまるで変わってしまうので、四つ葉の確率というのは計算できません」

 とのことで、

「正確に三つ葉が作れず、四つ葉になりやすい突然変異の細胞が入っている場合には時々起きる現象です。また、葉が作られる時に踏まれて傷ついたり、栄養が多すぎたりといった環境が原因で四つ葉になることもあります。どちらにしても葉のパーツを余分に作るので、株が太っていないと出にくい。そのため土が肥えていて水分が潤沢な場所、そして勢い良く伸びている春などによく見られます」

■歩けば見つかる

 とはいえ、そうそうお目にかかれないのは確かである。そこで、道を究めた大隅教授に尋ねると、勤務する横浜市の東工大すずかけ台キャンパスは“宝庫”だというのだ。

「大学へ行って、ラボ(研究室)で疲れたら散歩して、ふらふら歩いていれば見つかります。クローバーは一番早く葉を展開するから、やはり春先が最も探しやすく、私のいる建物の近くでは、1時間歩いたら10本くらいは必ず目にできます。でも、自宅の庭のクローバーには四つ葉は1つもありません。株によって違うから、横浜のキャンパスにはもともと多いのでしょう」

 採取した四つ葉は、周囲に進呈する。ちなみにシロツメクサの花言葉は“幸福”“約束”あるいは“私を思って”というもので、

「男性にはあげていないけれど、他意はない。渡していない女性から『私にもください』と言われることもありますし、家にもたくさん持って帰って、妻に渡していますから」

 で、まさしくその作業が、研究の重要な礎になるというのだ。

「日本人は小さい頃から、ものをパッと見ただけで何かを認識するという能力が鍛えられてきています。というのも、そもそも漢字とはパターン認識。英語だとアルファベット1つ1つに意味はないけれど、漢字はそれぞれ意味があり、理解できる。訓練されたこの能力は、実は生物学者にとって非常に大事で、私も日頃は特段意識していないけれど、周囲とは非対称な四つ葉がパッと目に入った時、『これは違うなあ』と、瞬間的に感じられるわけです」

 かような至難の業を、いともたやすく語りつつ、

「何ごとも、注意深く見れば面白いものですよ」

 観察眼こそがサイエンスの“極意”だというのだ。

ワイド特集「君の名は」より

週刊新潮 2016年10月20日号掲載

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