NHKの「生前退位」スクープ 手引きの宮内庁幹部を安倍官邸が更迭

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〈不幸な時代の重荷は我々が負わねばならぬ〉とは、「リア王」終幕でのセリフである。天皇陛下が「生前退位」のご意向をお持ちだとNHKがスクープしたのは7月。が、その裏で繰り広げられていた暗闘によって、一人の宮内庁幹部が更迭される破目になったのだ。

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 10月1日付の宮内庁人事で、宮家のお世話をする責任者である西ヶ廣渉・宮務主管(66)が退任した。宮内庁担当記者が言う。

「我々に内容が知らされたのは9月29日でしたが、記者会では“やはりあの一件か……”と、憶測を呼んでいました」

 外務省出身の西ヶ廣氏は、リビア大使やルクセンブルク大使を経て、2014年4月から現職にあった。

「内閣府に任命権のある特別職であり、定年はありません。前任者も退任の目安となっている70歳まで10年務めてきました。それが、わずか2年半での交代ですから、異例と言わざるを得ません」(同)

 加えて、前述した“一件”が大きかったというのは、さる政府関係者である。

「NHKがあのニュースを最初に報じた7月13日の直後から、官邸では、誰がどうスクープを仕掛けて記者に伝えたのかという“犯人探し”が始まりました」

 その早い段階で、西ヶ廣氏の名が浮上したという。

「陛下のお気持ちを受け止められた秋篠宮殿下の意を受け、宮務主管がNHKの記者を殿下に引き合わせる役割を担ったと分かりました。殿下を通じて“お気持ち”を内々に聞かされた記者は、ここからスクープに向け準備を始めたのです」(同)

 情報源としては、これ以上のお墨付きはあるまい。

度々さや当てを

一方の官邸は、

「かねてより陛下がそうした“ご意向”をお持ちだと知りながら、8月8日にお言葉が発せられるまで、まったく重い腰を上げようとはしなかった。ご意向に添って動き出せば、『陛下の政治的行為』を容認したとも受け取られかねなかったからですが、そんな中でのスクープによって、政権は大変な難題を突き付けられてしまいました」(同)

 官邸からすれば、腹立たしいことこの上なく、

「とはいえ、陛下や皇族方にこうした憤懣をぶつけられるはずもない。かくなる上は、スクープを手引きした者に詰め腹を切らせよう、となったのです」(同)

 安倍政権と宮内庁とは、これまでも度々さや当てを繰り返してきた。官邸から煙たがられていた風岡長官が70歳の誕生日を迎えた途端、退任に追い込まれたことは10月6日号の本誌(「週刊新潮」)でも報じた通りだが、

「宮内庁は今後一層、政権がグリップしやすい布陣で固められることになるでしょう」(同)

 そうした“流れ”の中でパージされていった格好の西ヶ廣氏に尋ねると、

「一連の動きには、私は一切関与していません」

 あくまで否定しつつ、自身の退任については、

「変革の時期を迎え、新たな体制によってこれを乗り切っていくことになったためだと理解しています」

 国民統合の象徴である陛下が切なる思いを抱かれながらも、周囲の不作為でことが進まず、見かねて「お言葉」に至ったのだとすれば、望ましき世とは言い難い。去りゆく幹部の胸中にも、あるいは冒頭のフレーズが去来したかもしれない。

週刊新潮 2016年10月13日神無月増大号掲載

「ワイド特集 男の顔は履歴書 女の顔は請求書」より

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