敗退行為3回の服部桜、母は「わざとじゃないんです」

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 戦うべきか逃げるべきか、それが問題だ――。豪栄道の初優勝に沸いた大相撲秋場所。その快挙の陰で、珍事が話題となっている。180センチ、67キロの軽量力士、服部桜(18)による「敵前逃亡」である。ハムレットばりに揺れたその胸中には、何が去来していたのか。

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 白い仕切り線の手前に両拳をつく。立ち上がる。そして相手に触れようともせず前方に両手をつく。

 仕切り直し…。

 今度は立ち上がった直後に、まるでヘッドスライディングのように前方に飛んで倒れ込む。取組相手で184センチ、129キロの錦城(18)は唖然とするばかり。

 仕切り直し……。

審判部長が師匠の式秀親方に厳重注意する事態に…

 三度(みたび)立つと同時に、誰にも押されていないのに後方に尻もちをつく。ざわつく両国国技館。

 仕切り直し………。

 4度目の立ち合い。ヨチヨチ歩きの赤ん坊の如く錦城に歩み寄ると、いとも簡単に押しつぶされ、服部桜はようやく「正式」に負けることができたのだった。

 秋場所3日目の9月13日に繰り広げられた、前代未聞の敗退行為。

「西序ノ口29枚目の服部桜は、戦わずに負けようとした。審判部長が師匠の式秀親方に厳重注意する事態に発展しました。初土俵から1年やってきて首を痛めていたというのが彼の言い分です」(相撲記者)

 相撲評論家の中澤潔氏は、

「50年以上相撲を観続けてきましたが、こんな取組は観たことがない。これまで、無気力相撲と言われる八百長が問題視されてきた経緯がありますが、今回の服部桜の行為はそれ以下。いくら髷(まげ)を結っていても、彼は力士とは言えません」

 と、手厳しい。しかし、

「これだけはどうしても分かっていただきたいんです。わざとじゃないんです」

 時に涙を浮かべてこう語るのは服部桜の母親(44)だ。

「取組後に息子と会うと、反省しながら『自分でも、まさかあんなふうに身体が反応するとは思っていなかった。お母さん、悔しいよ』と言っていました」

 一体、どういうことか。

■極度の怖がり

「あの子、いわゆるオタクで、パソコンで徹底的に調べ事をして、小学校の頃からよく首や肩が凝るほどだったんです。今回も、対戦前に相手のことをネットで調べたら、アームレスリング全日本ジュニアで全国2位になったことがあると知った。あと事実かどうかは分かりませんが、錦城さんは稽古で相手の歯を折ったことがあるらしいとか、そういう情報がインプットされていた。もの凄い恐怖心に支配され、ビクビクしたまま土俵に上がったら、身体が勝手にああ動いてしまったと言うんです」(同)

 母親の泣訴は続く。

「小さい頃から、竹馬を与えても『足をのっける部分が外れたらどうしよう』と心配するほど、極度のあがり症というか怖がりでした。そんな子が、どうしても相撲をやりたがったので背中を押してあげたんです。小中学校の運動会の駆けっこでは常にビリ争い。運動音痴な子でしたが、相撲は本当に好きだったので……」

 好きこそものの上手なれとはいえ、服部桜の通算成績は1勝40敗。「頑張れ」と声を掛ける以外にない。

「私も最初は、いくら何でもあれ(敗退行為)はないだろうと思いました」(同)

 母親を泣かせる「履歴」を重ねてはいけない。

「ワイド特集 男の顔は履歴書 女の顔は請求書」より

週刊新潮 2016年10月13日神無月増大号掲載

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