卸売業者は「中間搾取」をしているだけなのか? 短絡的な卸売業者性悪説を斬る!
■漁業者性悪説のウソ(2)
1匹3300円から60円まで極端な値動きを見せた今年のサンマ価格。魚価の乱高下は、いったい何が原因なのか?
経済学者の中には、複数の卸売市場が介在する複雑な流通システムを槍玉に挙げる者もいる。つまり魚市場関係者による「投機的取引」と「中間搾取」の横行が、魚価を不当に乱高下させているというのだ。
しかし、漁業経済学者の濱田武士・北海学園大学教授は、「卸売業者性悪説も、漁師性悪説と同じように、業界の実情をよく知らない人の妄説だ」と言う。
濱田武士さん
「もし卸売業者を排除するような市場外流通や規制緩和を進めれば、漁業全体が衰退するでしょう。それは日本の豊かな食文化を捨てて、アメリカのような単調で規格化された食文化を選ぶことを意味します」
どういうことか? 濱田教授と藻谷浩介さんの対談が収録されている『和の国富論』(新潮社刊)から、一部を再構成してお伝えしよう。
■「魚の目利き」卸売人が果たす役割
藻谷 ご著書の中では、漁業問題を、漁業者側の問題としてだけでなく、流通サイド、そしてわれわれ消費者側の問題としても描いていました。
濱田 『日本漁業の真実』(ちくま新書)にも書いた通り、漁業の流通は、基本的には生産者→産地卸売市場(卸売・仲買人)→消費地卸売市場(荷受・仲卸業者)→小売業・外食産業→消費者というルートを辿ります。そこに漁協や商社、場外問屋なども絡んで、とても複雑になっています。
藻谷 それが私のように不勉強な部外者には、中間搾取が横行した、とても非効率な流通機構に見えるわけですね。
濱田 でも、これは日々の天候や海の状況に左右される漁業の特質に合せて発展してきた仕組みです。供給側がどこでどの魚がどれだけ獲れるかわからない一方で、需要側は必要な魚が安定的に仕入れられないと困る。しかも、魚は青果や肉に比べて鮮度のオチが早い。そこで二つの卸売市場を挟んで、素早く広範囲の需給を調整する仕組みができたわけです。
藻谷 保存が利かないから、同じイワシでも、多く獲れたら安くなり、獲れなかったら高くなる。漁業はもともと究極の市場主義の世界なんですね。
食用魚介類の1人当たりの年間消費量の推移(農林水産省「平成24年度食料需給表」)
濱田 ええ。だから市場のない農村はあっても、市場のない漁村はないんです。
藻谷 漁業の不安定さは、供給側にとっても、需要側にとっても、あまりにリスクが高い。それをヘッジして市場機能を維持していくために、産地と消費地に卸売機能を置く複雑な仕組みを作り上げてきた。ところが、市場のそのような複雑な機能を理解できない“単純市場原理主義”の経済学者が、「ムダな中間業者を取っ払え」とのたまう。
藻谷浩介さん
濱田 しかも卸売市場は、需給調整や代金回収に関するリスクヘッジの他にも、魚の「目利き」という重要な機能を持っています。プロが品質を見極めて、それに見合った値段を付ける。旬な魚やその調理方法といった知識を媒介する。それが小売店から買い物客へと伝達されて、豊かで多様な魚食文化が維持されていくわけです。
ところが近年の水産政策論では、そういった卸売市場のリンケージ機能が軽視され、安易な市場外流通賛美や規制緩和論が飛び交っています。私は、このまま卸売の衰退を許せば、必ず漁業全体の衰退を招くことになると考えています。
藻谷 すでに大口量販店のバイイングパワーに翻弄されて、卸売市場の機能が低下していると指摘されていましたね。実際、スーパーの鮮魚売り場に行くと、一年中同じような魚の切り身ばっかり並んでいます。昔に比べて魚種が少なくなり、丸魚もめっきり減りました。
濱田 スーパーに並ぶのは「仕入れ四定条件」、つまり定時・定量・定質・定価を満たす定番品が基本です。
藻谷 すると結局、冷凍保存した海外の養殖モノに依存することになる。
濱田 スーパーの定番品は、東南アジア・中国産のエビ類、台湾産のマグロ類、チリ産のサケ類、オランダ産のアジ、ノルウェー産のサバ、アフリカ産のタコなど。マダイ、ハマチ、ホタテ貝などは、国産の養殖モノです。
それらをPOSデータで管理して仕入れをするので、昔の鮮魚店のように、多様な魚食の魅力を伝えることはありません。もっとも最近はチェーンストア系の販売競争も激化しているので、鮮度感を演出するために、産地直送の丸魚の対面販売などを行うところも出てきました。ただ、あくまでスポット的なイベントなので、魚食文化の普及に貢献しているかと言えば、微妙なところです。
(漁業者性悪説のウソ(3)へつづく)
※この対談の完全版は、藻谷浩介『和の国富論』(新潮社刊)で読むことができます。
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