恐怖の学生寮 最後の秘境「東京藝大」探検記(5)
「藝大は貧乏だ」と口にする方も多い。
「でも、生えている木が凄く太いから、いいと思う」
とは、『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』の著者、二宮敦人氏の奥様の弁。奥様は現役の東京藝大生である。たしかに設備も木も“老朽化”しているのは伝統の裏返しともいえる。ただし、そこは東京藝大、二宮さんは取材の中で恐怖のエピソードを知ることとなった。
速報「娘はフェイク情報を信じて拒食症で死んだ」「同級生が違法薬物にハマり行方不明に」 豪「SNS禁止法」の深刻過ぎる背景
■アリ、クモ、ハエ、そして……
「藝大の石神井寮はボロです。ほんとボロです」
かつて入寮していた学生が、その恐怖を余すところなく語ってくれた。外から見るだけでも廃墟と見まがうほど古い建物なのだが、中はより凄いというのだ。
「とにかく虫がいるんです。お風呂場に、アリの行列ができてるんですよ。お湯で流しても、また翌日には行列ができてて。練習室にはクモも出ますし。あと、梅雨時になると毎年あり得ない数のハエが! もう、大発生するんです。それからゴキブリ。ゴキブリはとにかくたくさん見ました」
「恐ろしすぎますね」
「ゴキブリ怖いんで、私たちは別の名前をつけてました。『クロコガネムシ』って。そうして少し、恐ろしさを減らしてましたね……」
根本的な解決になっていない。
「あと、共同のキッチンや、テーブルもあるんですけどね、何というか蓄積された汚さがあって。テーブルには誰のものかもわからない鍋や食器が積まれていて。冷蔵庫からは、粘土みたいな色になったレモンが出てきたり……賞味期限がとっくにきれたアセロラジュースがぽたぽた垂れてたり……」
「掃除をしないんですか?」
「する人が少ないのかな。私、もう嫌だってなって、友達と一緒に掃除したことがあるんです。テーブルの上も磨いてピッカピカの真っ白にして、これで明日からここでご飯が食べられる! って」
「おお!」
「そうしたら……翌日、テーブルの上にいっぱい、色んな虫が落ちて、死んでて」
「え、何故ですか、それ……」
「わかりません。急に綺麗になったから、ショック死でしょうか……それとも洗剤のせいかな……とにかく、結局その日もご飯はテーブルで食べられませんでした」
ホラー小説みたいだ。
■ドアを閉めると用が足せない
「男子寮のお風呂にはマイタケみたいなキノコが生えてるって聞いたこともありますし。トイレの電気もつかないんです。真っ暗だから、ちょっと隙間を空けないと夜は用が足せない。あ、大掃除したら古いスコアが出てきたこともありました。図書館から借りたものだったんですけど、その返却期限が1994年なんですよ! 今、先生をしているような方たちが使っていた楽譜で」
「つまり、その頃から掃除が十分でないわけですね……」
「ですね。もう、これを経験してしまったんで。今ならどこでも住めますよ」
学生の達観した表情が印象的だった。ただこの石神井寮、2014年に閉寮されている。耐震性、老朽化などを鑑みての決定で、実に60年間の長きにわたり藝大生と共に過ごした歴史は幕を閉じたのだ。現在藝大の寮は亀有にあり、そちらはこのようなひどい状態ではないそうである。数十年後はどうなっているかわからないが。