元“性奴隷”女性が国連の親善大使に 23歳の壮絶半生

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 過激派組織「イスラム国」が仮にもイスラム教徒を名乗るなら「目には目を、歯には歯を」の同害報復刑も覚悟しておくべきだろう。

夢は奪われたが声は奪えない

「16日、イラクのクルド系少数派、ヤジディ教徒のナディア・ムラド・バセー・タハさん(23)が国連親善大使に就任しました。2014年にイスラム国に拉致され、性奴隷にされた経験を公表した女性です。米タイム誌の〈世界で最も影響力のある100人〉に選ばれ、ノーベル平和賞候補にもなっています。就任演説では、声を震わせながら、今も性奴隷にされているヤジディ教徒の女性や少女3200人の解放を訴え、感銘を呼びました」(国際部記者)

 ヤジディ教徒について、現代イスラム研究センターの宮田律氏は言う。

「ゾロアスター教の流れを汲み、イラク北部に20万人が住む彼らをイスラム国は敵視し大量虐殺、若い女性や子供は連れ去りました。性奴隷にするなど、本来のイスラムの教義を外れた無茶苦茶な行為です」

 平和な村で教師を夢見ていたムラドさんは目の前で家族を殺され、拉致された。集団レイプを受け、以後は奴隷市場で繰り返し売買、決死の脱出行で命を拾った。

 イラク北部で取材を続ける報道カメラマンの横田徹氏は昨年、難民キャンプで彼女に直接取材している。

「家族などから依頼を受ける女性救出チームが今も活動中なのですが、当時私は、救出された親族の女性とムラドさんが再会を果たす場面に居合わせたのです。ムラドさんは農村部の普通の女性でしたが、心に手ひどい傷を負っているのは明らかでした。汚辱の過去を恥と見なす文化の中、自身の経験を語るのは本当に勇気ある行動だと思いました」

 言論で奴隷制の闇を訴える女性がいる一方、銃を取る女性たちもいる。横田氏が取材したヤジディ教徒の部隊には、多数の女性兵士が在籍、19歳の女性スナイパーもいた。復讐を公然と口にする彼女たちの前に今やイスラム国は劣勢で、

「本拠モスルの陥落も年内かと囁かれています」(同)

 イスラム国の男は〈女に殺されたら天国に行けない〉と信じているという。

 ならば、彼らが糾弾と銃弾を携えた、復讐の女神の苛烈さを思い知る日も近い。

週刊新潮 2016年9月29日号掲載

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