“北朝鮮が核ミサイルを発射” その時、防衛省の対策は

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 9月9日に5度目となる核実験を実施した北朝鮮は、「核弾頭の小型化に成功した」と宣言した。さらに、これに先立つ5日にはミサイルの発射実験も強行。発射されたミサイルの種類は精度の高い「ノドン」であったと、元自衛官で北朝鮮情報を担当していた軍事ジャーナリストの宮田敦司氏は見る。日本にとって脅威となるこの状況に、防衛の術はあるのだろうか。

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2016年9月5日に行われた弾道ミサイル発射風景

 日本のミサイル防衛は、海上自衛隊のイージス艦から発射するSM3と、航空自衛隊のペトリオットから発射するPAC3の二段構えになっている。これらはどの程度有効なのか。

「北が保有するミサイルは、ノドンだけでも約200発ある。これを射出するための移動式発射台は少なく見積もっても20基はあるでしょう。やろうと思えば、北朝鮮は20発のノドンミサイルを一斉に発射することができるのです」(宮田氏)

 防衛省幹部も言う。

「北が本気で日本を攻撃しようと思えば、ミサイルを1発だけ撃って終わりということは考えにくい。こちらが対処しきれないほどのミサイルを撃ち込んでくるはずです。これを『飽和攻撃』と呼んでいます。元々、冷戦期のソ連海軍が防空能力で勝る米空母機動部隊に対する攻撃戦術として採用していた。敵の迎撃能力が高いなら、それを飽和させるほど大量のミサイルを一気に撃ち込めばいいというシンプルな発想です」

■見分ける術はありません

SM3迎撃ミサイルを装備しているイージス艦「こんごう」

 SM3迎撃ミサイルを装備したイージス艦は日本に4隻しかなく、

「その全てが迎撃可能な場所にいるとは限りません。1隻が対処できるのはミサイル1発。仮に1度に20発飛んできたら、全てを迎撃することはできないでしょう。20発中1発でも核弾頭が入っていれば、どれが核でどれが通常弾頭かなんて見分ける術はありません」(同)

 SM3で撃ち落とせなかったミサイルは、PAC3で迎撃することになる。

「PAC3は全国の高射隊に配備されていて、有事になると防衛すべき拠点に移動する。最近もミサイルの『破壊措置命令』が下される度に、市谷の防衛省に展開。発射に備えています。しかし、その射程距離は長くなく、半径20キロほどしかカバーできません。市谷に展開したPAC3は、霞が関や永田町は守れるかもしれませんが、同じ東京でも立川や八王子に向かうミサイルには対処できないのです。結局は重要施設など特定の拠点を防衛するための兵器でしかありません」(同)

■間に合わない対応

発射されたミサイルはどこへ……

 そもそも、と先の宮田氏が続ける。

「防衛省は、『ミサイルが発射され、それが日本に落ちてくると判断した時点で直に迎撃する』と言う。しかし、一体どうやって発射されたミサイルが日本へ向かうと判断するのか。北朝鮮が撃ったミサイルが日本に着弾するまでの時間は10分以内とされる。しかも、弾道ミサイルは、発射して1万メートルまで垂直に飛ぶ。この間にミサイルの目的地を判断することはできません。1万メートル上空まで上昇して初めて向きを変えるのです。その時点で日本へ向かっていると判断し、イージス艦を出したり、ペトリオット部隊を展開しても間に合うはずがありません」

 通常弾頭のミサイルと共に核ミサイルが発射されれば、確実にアウトだが、

「韓国へ亡命した脱北者の証言では、度重なる核爆発で実験現場周辺では、髪の毛が抜け落ちたり、原因不明の病気で死ぬ人が相次いでいる。現地では『原子病』と呼ばれ、恐れられているそうです。核実験を行う際は、最低でも40キロ四方の空間を確保し、水質汚染を防ぐため地下水脈のある場所は避けねばなりません。5回の核実験は、それらを無視して行われたようです」(同)

 人民を平気で犠牲にし、核ミサイルを持った金正恩。やはり狂気の独裁者である。

特集「最大の脅威に成長した『北朝鮮』核弾頭小型化」より

週刊新潮 2016年9月22日菊咲月増大号掲載

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