日銀が“物言わぬ大株主”になる異常事態 ETFを爆買いで 

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日本銀行本店

 兜町に限っていえば、“爆買い”は中国人観光客から日本銀行の代名詞になりつつある。なにしろ、1日で733億円もの資金を投じて、“株”を買い漁っているからだ。結果、多くの企業の大株主になり、なかには筆頭株主に君臨するケースもあるという。

 9月15日の東京株式市場は、円高・ドル安の影響で輸出関連企業の採算悪化が懸念され、日経平均株価は前日比209円23銭安の1万6405円1銭で取引を終えた。

「この日は8月26日以来の安値でしたが、日銀の“爆買い”がなければ400円安になっていたかもしれません」

 こう安堵の表情を浮かべるのは、株式市場の関係者だ。

「日銀は7月29日の金融政策決定会合で、ETFの買い入れ枠を従来の年3.3兆円から年6兆円へ拡大することを決定しました。この日の前場は前日比199円51銭安で、後場に日銀がETFを733億円買った影響で日経平均株価の下落に歯止めがかかったわけです」

 ETFとは、上場投資信託のこと。日経新聞社が業種別に選んだ225社の株価の動きを指標にした『日経225』や、『TOPTIX』などに連動する金融商品だ。ETFを購入すると企業の株を間接的に保有することになるので、日銀が多くの企業で大株主になったのだ。

「米金融専門通信社『ブルームバーグ』の試算では、すでに日銀は世界的に著名なピアノメーカー『ヤマハ』の筆頭株主で、年内に『セコム』や『カシオ計算機』でも株主トップになり、来年末は55社、さらに18年末には82社の筆頭株主になる。これは『日経225』銘柄の3分の1を占める計算になります」(同)

 日銀を筆頭株主に戴くヤマハの広報担当者に聞くと、

「日銀が筆頭株主になったことは認識していますが、正直いって実感が湧きませんね」

■物言わぬ大株主

 ヤマハに実感が湧かないのも無理はない。日銀は現物株を保有していないので、株主名簿に記載されていないからだ。そのため株主総会には出席できず、企業からの配当金はおろか、株主優待を受け取ることもできないのだ。

 では、日銀がメリットに乏しいと思われるETFを買うのはなぜか。全国紙の日銀担当記者によれば、

「法的には現物株の購入も可能ですが、特定企業の株を購入すると公平性を担保できず、取引の回数が増えて委託先の三井住友信託銀行への手数料もかさむ。日銀の目的は、あくまでも全体の株価の底上げ。ETFを買えば最低でも日経新聞が選んだ225社をカバーできる。そんな理由で、日銀はETFを選んだのでしょう」

 だが、売らなければならない日は必ずやって来る。

「国債には償還期限がありますが、ETFにはそれがありません。日経平均株価が2万円を超えて、物価上昇率2%を達成しない限り、日銀がETFを売る可能性は極めて低いので、当分は塩漬けにするはず。こうした“物言わぬ安定した大株主”の日銀は、企業にとって非常にありがたい存在なのです」(同)

 この異常事態の先に何が起きるのか。ニッセイ基礎研究所の井出真吾・チーフ株式ストラテジストが指摘するには、

「日銀の“爆買い”で、企業の経営実態が株価に反映され難くなっている。株価が高ければ、経営者は経営努力を怠りがちになると同時に、個人株主の声にも耳を傾けなくなる恐れがあります」

 ETFの大量購入は事実上、公的資金の注入。いくら何でも、大企業を甘やかし過ぎではないか。

週刊新潮 2016年9月29日号掲載

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