ツキノワグマを目潰しで撃退! 63歳“沖縄空手五段”が死闘を語る
熊と空手と言えば、思い出すのは“熊殺し”ウィリー・ウィリアムス。巨大なヒグマと格闘してみせた映画は、伝説となる一方、常に“ヤラセ”疑惑が付きまとっているが、以下は正真正銘、熊を空手で撃退した人物だ。63歳「沖縄空手」五段の目潰し対戦記である。
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これが貫手だ!!
群馬県長野原町は、軽井沢の北、草津温泉の南に位置し、建設を巡って揉めた「八ッ場(やんば)ダム」予定地を抱える山間地域である。
その最西部にある自宅で、
「テレビじゃ熊に遭ったら、後ろを向かずに静かに下がって逃げろと言っているな。でも、そんなの無理だ!」
と口角泡を飛ばして語るのは青木篤さん(63)。農業を営む青木さんは、若い頃、農協に勤める一方、ある“特技”を持ち、それを人に教える立場でもあった。
その青木さんが死の淵を見たのは9月1日。昼過ぎ、自宅から車で5分とかからない地蔵川に渓流釣りに出かけた青木さん。沢に入り、ポイント目がけて釣り糸を投げた。少し待てば、イワナやヤマメが釣り針を叩く。いつもの日常の一コマだ。
その時、である。
手負いとなった青木さん
■ヌルッという感触
「ウォー」
わずか5メートルほど先の藪の中から顔を上げた黒い塊は、目が合うや仁王立ちとなって咆哮を上げ、前足を地面につけると、あっという間に飛びかかってきたという。
青木さんが続ける。
「たまたまそこで寝てたのを、沢へ入る音で起こしてしまったんだろ。180~190センチはあったと思うね。ヤバいと思って慌てて川べりに上がったけど、奴はボクの顔くらいに口を開けて飛びかかってきた。身体をかわそうとしたけど、跳ね飛ばされてしまい、よろめいた隙に長靴の上からふくらはぎの下をガブッと噛まれてね。牙が食い込んだのがわかったけど、無理やり足を引き剥がしたんだ」
手負いとなった青木さんに熊の攻撃は止まない。両前足を交互に振りおろされ、右目の脇を爪で裂かれた。
普通なら一巻の終わり……しかし、彼には前述の特技があった。青木さんは20歳の頃から沖縄空手「清永会」の指導を受け、段位五段を獲得。一時、道場を開き、30人の弟子を取っていたほどの達人である。
「攻撃を避けながら、必死で熊の顔を殴って応戦したよ。懐に飛び込んで首を押さえ込もうとしたら、熊が頭をブルッて振っただけで外されて、右手を振り下ろしてきた。その手をボクがはらってかわすと、ちょうど目の前に熊の右目が来た」
実は、沖縄空手には、目潰しも金玉潰しの技もある。そこで咄嗟に「昔取った杵柄」が出たのだという。
「右腕を伸ばし、その目に中指と人差し指の2本を渾身の力を込めて突き刺したんだ。沖縄空手の『貫手(ぬきて)』という技なんだけど、若い頃に習得していたのが無意識に出たんだな。指が眼球にブスッと入り、ヌルッという感触がしたよ。そこで抜かなかったのが良かった。そのまま突き刺し続けると、あんなに攻撃的だった熊が自分から顔を振ってボクの指を抜いて、一目散に逃げていった。何回か木にぶつかっていったから、右目は潰れていたんだと思う」
撃退までの所要時間は1~2分。青木さんは、熊が去った後も、息苦しくて動きが取れず、しばらく河原に寝て息を整えた。「死闘」であった。
その青木さん、熊との遭遇は初めてだが、冒頭の映画は見たことがあるという。
「当時はウィリーはすごいと思ったけど、あの熊は動きが緩慢だろ。本物は全然違うよ。たまげたスピードとパワーで空手家だってとても闘えるものではないな」
で、もう熊はこりごり。大好きな渓流釣りもこれからしばらくは控えよう、としみじみ語るのである。
「ワイド特集 きょうびの寓話」より
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