巷は賞賛一色でも専門家たちの違和感 天皇陛下「お言葉」は「違憲か暴走」と断じる皇室記者の失望
8月8日に公表された天皇陛下の「お言葉」は“平成の人間宣言”などと称えられている。近代以降、前例のない生前退位へのお気持ちを示された約10分間の談話は、国民の心を強く揺さぶった。が、長らく皇室を見続けてきた専門家たちは、違和感が拭えないというのだ。
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さる5日には、陛下のお気持ちに応えるべく政府が特別措置法を制定し、皇室典範の付則に明記する形で検討に入ったと報じられた。
あらためて「お言葉」を振り返ってみると、
〈次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています〉
傘寿を超えた陛下がそう吐露されたことで、例えば読売新聞の世論調査では「お気持ちの表明」について「良かった」が93%。朝日新聞や共同通信のそれでも「生前退位」について、実に80%以上の人が「できるようにした方が良い」と回答していたのだった。
が、その一方、陛下をはじめ皇族方の動静を日々、専門に取材している「宮内記者会」においては、論調は大いに様相を異にしていた。
「あのような『お言葉』を陛下が発せられたことに、失望を禁じ得ませんでした」
とは、大手紙の皇室担当記者である。
「テレビの街頭インタビューも『長い間お務めを果たされた』『ゆっくり休んでほしい』といった賞賛の声に満ちていましたが、そうしたレベルの話ではない。あのお気持ちの表明によって、陛下が皇后さまとともに28年間、ひたすら慎ましやかに積み重ねてこられた“あるべき象徴としてのお振舞い”が台無しになってしまった。端的に言えば禁じ手、『やってはいけないことをなさってしまった』ということ。記者会の内部はもちろん、OBや本社デスクなど、長らく皇室取材に携わってきた者ほど、こうした思いを強くしているのが現状です」
というのだ。
陛下がお気持ちを示されれば、多少なりとも政治性を帯び、すなわち憲法に抵触する虞(おそれ)が――。そんな懸念は、お言葉の公表前から存在した。もっとも、宮内庁担当OB記者によれば、
「これまでも陛下が強いご意向をお持ちになり、行動へと移されたことはありました。2011年に表面化した『女性宮家構想』など、まさしく陛下の思し召しに他なりません。また07年にはバルト3国を訪問されましたが、この時は生物学者のカール・フォン・リンネ生誕300年を記念して母国のスウェーデンにも赴かれている。陛下はリンネ協会の名誉会員で、かねてより強いご関心を寄せてこられた。いわば“ご趣味”も踏まえた外遊であったといえます」
さらには一連の“慰霊の旅”である。
「戦後50年の節目に始まり、05年のサイパンや昨年のパラオ、そして今年のフィリピンまで。すべてご自身のお考えから実践されたのは言うまでもありません」(同)
むろん、それらの際には、
「徹底して水面下で調整がなされてきました。万が一にも陛下の『これがしたい』とのご意向が露わになれば、憲法上の問題へと発展しかねないので、周囲が十重二十重に忖度する形をとって実現をみてきた。そもそも、それが皇室の美徳であったはずです」(同)
■「受動的」のはずが…
そうしたご活動を通じ、国民の敬意はおのずと育まれていったわけだが、
「今回、陛下はその美徳とは相反するかのように『全身全霊をもって象徴の務めを果たしていく』『国民の理解を得られることを、切に願っています』などと、いつになく直截な表現をなさっていた」
社会部の皇室担当デスクはそう振り返り、
「さらに驚いたのは、メッセージの中で、皇室典範に定められた摂政の適用について明確に否定的なお立場を示されたことです。冒頭で『個人として、これまでに考えて来たことを話したい』と前置きされているものの、7月に麻生副総理が摂政制度に言及したことへの返答とも受け取れる。もはや“国政に関する権能を有しない”と定めた憲法を踏み越えているのは明らかです」
陛下は3年前、80歳のお誕生日会見で、
〈平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り――〉
と述べられ、続けて、
〈知日派の米国人の協力も忘れてはならない〉
そう付言されていた。
「米国による“押しつけ憲法”から脱却し、改正しようと躍起になる安倍政権を牽制されてきたとも拝察されますが、そのご自身が憲法に抵触なさってしまえば、全てが水の泡です。お年を重ねられ、皇室の抱える諸問題をのらりくらりとやり過ごす現政権に痺れを切らされたのかもしれません。いずれにせよ、こうした“暴走”を、宮内庁は止められなかったわけです」(同)
かつて陛下は皇太子時代の1972年12月、お誕生日の会見で、こう述べられた。
〈皇室は常に受動的なもの〉
最近では秋篠宮さまも2004年のお誕生日に際し、
〈公務というものはかなり受け身的なもの〉
そう仰っている。これは皇室ならびに象徴天皇制の根幹をなすお考えともいえるのだが、別のベテラン記者は、7月13日のNHKスクープに端を発した一連の動きと陛下との関わりについて、こう指摘するのだ。
「今回のスクープの最大の“情報源”は、いわば陛下です。陛下のご了承のもと、宮内庁が公共放送とタッグを組み、壮大なシナリオを描いたわけです。侍従たちに筋書きを作らせ、事前にメディアにリークして世論の反応を探り、その上で報じた通りのご発言をなさるというのは、多分に政治的だと言わざるを得ません」
受動的どころか実に能動的なお振舞いであり、こちらもまた“違憲”の疑いが濃厚だというのだ。
「ですが、大半の国民は“陛下もあれだけ頑張ってこられたのだから”と、感情に流されてしまった。その時点で日本中が思考停止に陥り、憲法との兼ね合いから目を逸らされてしまったのです。あえて言えば、これは陛下がたびたび『深い反省』とともに言及なさってきた、先の大戦時と同じ構図になってしまったのではないでしょうか」(同)
それでも当の記者たちは、
「崇高なほどストイックに憲法を守り、黙々とご公務に取り組まれる陛下のお姿をずっと拝してきたのに、今までは一体なんだったのか。そんな違和感を記事にできるはずもなく、忸怩たる思いで情勢を見続けています」(同)
落胆は、依然広がったままだというのだ。
「特集 巷は賞賛一色でも専門家たちの違和感 天皇陛下『お言葉』は『違憲か暴走』と断じる皇室記者の失望」より
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